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□罪と罰
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もう戻れないあの夜を思い出すと、今でも悔恨に苛まされる。
自分の甘えが、こんなにも真っ直ぐな彼女を傷付けた。

こんな俺じゃ、とても君を守れない。
一緒にいても、きっと君を傷付けてしまうだけだろう。


しっかりと気持ちに区切りをつけなければいけない。
未練がましい気持ちを振り切るように、自分を奮い立たせる。


「……可能なら、俺がこの手でずっと守りたかったけど……」

残念ながら……俺には、その力も資格もなかった。
やっぱり俺には、大事な女性を守るなんて、できないのかもしれない。


「野村さん! あの、私……!」

叫ぶように発せられた声で、彼女が何を言おうとしているのかが分かったから……、
思わず熱い感情が込み上げそうになって、
――グッと堪える。

9歳も年下の彼女の優しさに甘えて、今まで散々振り回して。
……これ以上もう、傷付けてはいけない。
二度とあんな風に泣かせたくはなかった。


迷う気持ちを抑え込んで……、人差し指を彼女の口元にすっとかざす。

彼女は即座に俺の意図を察し、
瞳を潤ませながらも、気丈にも唇をきゅっと結んで堪えようとする。


……ああ。
やっぱり君は、いい女だよ。
俺なんかには、もったいないくらいの。


「……俺みたいな男には、引っかかっちゃダメだよ、名前ちゃん」

笑ってみせるのがこんなに辛いのは初めてで。
目の前の彼女の下手くそな笑顔を見て、きっと自分も鏡のように同じ顔をしているのだろうと思う。


――それでも、今は、笑っていよう。
嘘でもいいから、笑っていよう。


彼女が、笑う。
眼の端に涙を滲ませながら。
拳をぎゅっと握りしめながら……。


名前。
その、強くて綺麗な横顔が好きだよ。
真っ直ぐ前を見つめる眼差しが好きだ。
遠慮がちだけど温かく包み込んでくれる、その慈悲深さも。

そう言っていれば、よかったのだろうか。
思っていることをそのまま口にできていれば……、
今頃は二人で、肩を並べられていたのだろうか?


……でも、もう過ぎたことだ。


俺はこれからもそっと密かに、その横顔を見つめているだろう。
ますますいい女になっていく君のことを、肩を抱くことはできなくても、遠くからでいいから見守らせて欲しい。


……それでいいのだと、言い聞かせる。
それが、いいのだと。


そうしてひっそりとこの思いを封じ込めることが、
君をあんな風に傷付けてしまった、弱く小さいこの俺に与えられた罰、なのだろうと。





<END>
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