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□Aweke memory
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Awake Memory




「雨が降るなんて言ってなかったのに・・・」
私はそう呟きながら、どうやって帰ろうかと思案していた。
天気予報では「晴れ」と言っていたために傘を持ってこなかった。さらに不運な事に、今日に限って学校に傘を置いていなかった。
「理帆ちゃんは委員会だし、柚希ちゃんは補習。どうしようかな・・・」
そうやってずっと考えていると、ふいに肩を叩かれた。
「さっきから此処で立ちっぱなしでどうしたの、優衣?」
気づいていなかったけど、少し前からずっといたらしい。
振り返るとそこには、蒼依ちゃんがいた。
「傘持ってくるの忘れちゃって、立ち往生してた」
私は、それだけ言うと、思わずため息をついた。そうしていると、私の視界に一本の傘が移った。
「これ、使ったら?私、常に携帯用の傘持ってるし、学校に傘置いてるから」
そう言った蒼依ちゃんは、微笑んでいた。
「じゃあ、借りていい?」
「もちろん。返すのは、いつでもいいから」
「ありがとう。それじゃ、明日学校でね」
そう言って私は、蒼依ちゃんから傘を借りて帰路についた。

その晩、私は不思議な夢を見た。


あれは、何だったのだろう。
私は、夢の内容について色々考えながら登校していた。
考えに没頭していると、私の名前を呼ぶ声が、微かに聞こえたような気がした。
そして、肩を叩かれて後ろを振り向くと、頬に触れる、指先。
「見事に引っかかったねー。おはよう、優衣ちゃん。朝から考え事?」
「・・・おはよう。うん、色々とね」
「そっか。珍しいね、優衣ちゃんが朝から考え事なんて」
理帆ちゃんにそう言われて気がついた。
確かに私は、朝から考え事をすることが滅多にない。考え事をしたとしても、昼間や、就寝前だ。そう考えると、滅多にないどころか、今回が初めてかもしれない。きっと、あんな夢を見たせいなのだろう。朝から、夢の事ばかりを考えている。
「って、優衣ちゃん。立ちすくんで考えてたら遅刻するよ」
「あ・・・、そうだね」
理帆ちゃんの一言で、私の意識は現実に引き戻される。理帆ちゃんの言うとおり、このまま考え続けていては遅刻する。
そう思った私は、理帆ちゃんと一緒に学校へ向かった。

「あ、優衣ちゃん、理帆ちゃん、おはようー」
「おはよう、柚希ちゃん」
教室に入るとすぐ、柚希ちゃんが声をかけてきた。その後ろに、蒼依ちゃんもいる。
私は昨日、蒼依ちゃんに傘を借りていたことを思い出す。
鞄から傘を取り出す。
「蒼依ちゃん、これ有難う。おかげで濡れずにすんだよ」
「お礼なんていいよ。あたしは昨日、傘を二本も持ってたんだもん。一本くらい、普通に貸すよ?」
そう言われて、確かにそうだと私は頭の中で納得する。そうしていると、またあの夢を思い出した。
「あ、そういえば、今日の七時間目のHRで、席替えするんだよね?」
「うん。理帆ちゃんや柚希ちゃんや蒼依ちゃんの近くだったらいいなぁ」
席替えの方法は、くじだ。特に男女の席の位置は関係なく、周りが全員女子、というのももちろんありだ。
だから私は、仲の良い理帆ちゃん達の近くがいいな、と純粋に思った。
そして、七時間目の席替えでは、見事にその期待を裏切られなかった。

放課後、私は夢の内容について考えていた。あまり細かくは覚えていないけれど、確かに誰かが流されていたような気がする。何故そんな夢を見たのだろう。そんな夢を見る理由が分からない。
「優衣ちゃん、そろそろ帰ろう?」
「そうだね」
理帆ちゃんに言われて、思考を停止させる。
気がつけば、教室には私達しか残っていなかった。時間は、さほど遅くなっているわけではなかったけれど。
それでも、教室に私たちしか残っていないのは多分、今がテスト前だからだと、私は思った。


家に帰って勉強しようと思っても、あの夢の事が忘れられない私は、テストが近いのに勉強どころではなかった。
 
そして。
私はその夜もやっぱりあの夢を見た。



『掴まって!』
『駄目、流されちゃう・・・!』
『どうすれば・・・』
―何人かの少女が、水のあふれた川辺で何かしている事だけが、その夢で何となく分かったー
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