とある科学の超電磁砲
□言葉に出来ない代わりに
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(美琴視点)
「遅くなってしまいましたが、白井さんの退院祝いをやりませんか?」
始めはそんな佐天さんの一言からだった。
そういえば黒子が退院してから1週間程経つ。
よくよく考えなくても、まだ怪我が治ってなかったとはいえ退院自体はおめでたい事なのに、何もしていなかった。
まぁ、そんな余裕がなかったと言えばなかったかもしれないが。
「退院してすぐ大覇星祭でしたから、中々ゆっくりと時間が取れなかったり、事件があったりもしましたからねぇ」
「そうなんだよねー。まぁ、そんな感じで大覇星祭も終わりましたし、やるなら今のタイミングしかないんじゃないかなーって。白井さんの怪我ももう大分良くなってるんですよね?」
「うん。本人が言うには、もうほとんど痛みもないみたい。元々の怪我の方も、それと2日目に負った方の怪我もね」
「順調に怪我が治っているようで何よりです」
「もう車椅子も必要ないんじゃないかしら」
今なら多少無理をしても傷が開いたりして傷む事はないんじゃないだろうか。
そう思えるくらいには元気にしている黒子の姿を思い出した。
何なら既に必要ないとばかりに、寮内ではもう車椅子を使う姿が見られなくなったくらいだった。
まだお医者さんから車椅子が要らないと正確に診断されたわけじゃないから、一応まだ外に出る時は車椅子を使ってはいるようだけど。
「とりあえず、早い方がいいですし、明日はどうですか?」
「いいですね!あ、でも明日は風紀委員のお仕事が…」
「黒子は午前中、病院に行くって言ってたわね」
いつ、どこでするか、とりあえず予定を立てなければ進まない。
なので、3人で話し合ってまず日時と場所を決める。
そうして、結局明日、177支部で行おうという事になった。
…仕事の合間とはいえ、いいのだろうか。
あと、支部でやって、固法先輩に怒られなきゃいいけど。
まぁ、固法先輩も黒子の事心配してたし、意外と大丈夫かもしれない。
それに、何だかんだ部外者のはずの私や佐天さんが支部にいても追い出したりしないくらいには甘い所あるし。
場所はいいとして、あとは何をするか、ね。
「お祝いとはいっても、場所も支部ですし、大がかりな事は出来ないかもしれませんね」
「うーん…じゃあ何かみんなで美味しいものでも食べるとか?あ、お祝いだしケーキとか?」
「いいですね。あとは飲み物とちょっとしたお菓子とか何か用意しましょうか」
「…あ。それなら、ケーキとか食べ物は私が用意していい?」
「いいですけど、御坂さんに任せちゃっていいんですか?私達も手伝いましょうか?」
「大丈夫。あのね、折角だから何か作ってあげようかなって思ってるの。だから、初春さんと佐天さんは他の事お願いするわ」
「御坂さんの手料理、ですか!?」
「うわ、絶対白井さん喜びますね!よっし、じゃあ初春、料理は御坂さんに任せて、飲み物とか他の準備しよう」
分担を決めてからそれぞれ準備の為に解散した。
さて、私はとりあえず何を作るか決めないと。
ケーキはもちろんとして、後は何か軽く食べられるものがいいかな。
私が料理を引き受けようと思ったのには理由がある。
黒子に喜んで貰いたかったっていうのもあるんだけど。
何よりも、そこに私の気持ちを込めたかった。
今回の事件、食蜂によって黒子から、そして初春さんや佐天さんからも私との記憶が一時的に消されていた。
そんな中、事件に巻き込んでしまったが、記憶がなくても3人とも事件解決の為に頑張ってくれていた。
それは、学園都市の平和を守るため、という部分もあったのかもしれないけど。
それでも、事件に関わったきっかけは私だ。
頑張ってくれた3人に、本当はきちんとお礼を言いたかった。
特に、この事件で怪我を増やしてしまった黒子には、お礼だけじゃなく、謝罪もしたかった。
そもそも、最初に怪我を負うきっかけになってしまった残骸事件だって、元を正せば私のせいで。
黒子には謝っても謝りきれない。
けれど、今回の事件については食蜂による記憶改ざんによって、テロリストを捕まえるという内容に変わっていて、その上私はトイレに籠城していた事になっていた。
黒子達の事件の認識がそんな状態では、私がお礼を言うのも、謝罪を言うのも黒子達からしてみればおかしくなってしまう。
伝えたい事があるのに、伝えられないもどかしさ。
それを、言葉では伝えられなくても、せめて何か伝える代わりに気持ちを込められる事があるのなら。
そう思っていた所へ黒子のお祝いパーティの話が持ちかけられたから引き受けた。
ただ、それだけの事だ。
そうして翌日。
前日、黒子には内緒でこっそり作っていたケーキと、朝から作った料理を持って支部へとお邪魔した。
黒子は病院に行った後、そのまま巡回してから支部に来るらしい。
支部に行くと、既に初春さんも佐天さんも、そして固法先輩もいた。
話を聞いたらしい固法先輩は少し苦い顔をしていたが。
「…話は聞いてるわ」
「すみません、固法先輩。支部をお借りしてしまって」
そう謝れば、もう諦めたような様子の固法先輩。
何だかんだ受け入れてくれる所は優しいなと思う。
「御坂さん、料理全部お任せしちゃってすみません」
「飲み物の方はばっちり用意しておきました。あと、一応お菓子も少し」
「ありがと。そうそう、黒子、もう車椅子必要ないって病院で言われて、車椅子はもう返したみたいよ」
心配だったから、診察が終わったら一度連絡してくるように黒子には伝えていて、黒子はちゃんと連絡をくれた。
そう告げた時の黒子の声は、すごく嬉しそうだった。
まぁ、寮内だろうが外だろうがもう痛みも特にないのにと呟いていたから、その気持ちは察する事が出来た。
「良かったじゃないですか。これで完全復活ですね!」
「おめでたい事ですけど、怪我が治った分無茶もまた増えそうですねぇ」
「車椅子の状態でも仕事してる辺り、既に無茶してるようなものだけどね。…まぁ、白井さんらしいっちゃらしいけど」
「あー…。黒子にあまり無茶しすぎないよう言っておきましょうか?…あの子の性格上、言うだけ無駄な気がしますけど…」
そんな会話をしつつ、準備を進める。
もうすぐ黒子が支部に来るって事で、作ってきた料理やケーキも並べて。
気合を入れて作ったそれらを見て、初春さんも佐天さんも目を丸くして感嘆の声を上げていた。
視界をずらせば、やはり少し驚いた様子の固法先輩。
…そんな大したものじゃないつもりだったんだけどなぁ。
と思っていたら、ドアの向こうから足跡が聞こえてきた。
黒子だ。
ドアを開けた黒子はどんな反応をするだろうか。
どんな顔をして、私の料理を食べてくれるのだろうか。
黒子への気持ちを一番に、初春さんと佐天さんへの気持ちも込めたそれらを一度見てからドアに目を向けた。
fin.