とある科学の超電磁砲

□当たり前の愛しさ
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「全く…幸せそうな顔しちゃって…」



自分の妄想で気を失い、そのまま幸せそうな顔をしている黒子を背負いながら寮を目指して歩く。

ほんとは起こしたっていいんだろうけど、今日はそのまま負ぶっていてあげたい気分だった。

大覇星祭2日目、私の記憶がない状態にも関わらず、黒子はそれまでと変わらず助けてくれた。

もちろんそれは、私の為というよりはきっと、風紀委員としてなんだろうけれど。

でも、事件を解決するために奔走して、体を張って怪我まで増やして。

怪我をさせてしまった事は申し訳ないとは思うけれど、元々怪我を負いながら、それでも必死に事件の解決に一役買ってくれた。

その事実が嬉しかった。

だから、今日くらいはこの子に優しくしてあげるのもいいかな、と思った。

まぁ、この子の行き過ぎた妄想には付き合えないかもしれないけど…。

それでも、言葉には出来ないお礼を、この子にしてあげることが出来たら。



「…お姉、さまぁ…」

「黒子、起き…って、寝言か。どんな夢見てるんだか」



思わずクスっと笑ってしまう。

きっと夢の中でも私と一緒なんだろうなぁ。

記憶がない間、黒子からいつものように『お姉さま』と呼ばれる事がなくて、実は少し寂しかった。

黒子が隣にいないことが寂しかった。

気が付けばいつも黒子が隣にいた事が。

私の事を『お姉さま』と呼んでくれていた事が。

すっかり私の日常になってしまって、当たり前になってしまっていた。

だからこそ、今、黒子が此処にいて、私を呼んでくれる事が嬉しくて。

何だか愛おしくて、温かな気持ちを抱きながらゆっくりと歩く。

背中で眠っている黒子を起こさないように。






「…ん?」

「あ、起きた?」



目が覚めたらお姉さまの背中が見えた。

少し視線をずらすと、見慣れた寮室。

…何故寮室にいるのかというのもあるが、お姉さまの背中に背負われているのも何故なのかと一瞬考える。

確か、いつもの4人で大覇星祭をやり直して、私がお姉さまに勝って優勝し、何をお願いしようかと考えた所までは覚えている。



「えっと…」

「アンタ、私にして欲しい事口走りながら妄想だけで気絶したのよ。で、仕方ないから私が背負ってたの。ちょうど今帰ったとこよ。そのまま気を失ったままだったらベッドに寝かせようと思ってたけど…ま、起きたなら背中から降りてくれる?」

「そういうことでしたの。お姉さまの手を煩わせてしまって申し訳ありませんの。まぁ、本音を言えばお姉さまの背中の温かさを…いえ何でもないですの。ちなみに、わざわざ背負って下さらずとも、私を起こすという手もあったのでは?」

「それもそうなんだけどね。でも、たまにはいいでしょ?勝利者の権利ってやつで」



背中から降りると、お姉さまは優しい笑顔で笑っていた。

気を失ってしまう前に考えていたあれこれを行使しようという気持ちは何処かへと消えて。

しばらく何も言えないままお姉さまを見つめていた。



「って、黒子?どうしたの?何か固まってない?」

「いえ、あの、その…」

「とりあえず、運動した後だし、お風呂入る?黒子先入っていいわよ?」

「あ、はい…では先に入らせていただきますの…」



いつもより優しいお姉さまに何だかドキドキしてしまう。

上手くお姉さまと会話出来ないまま、私は逃げるように浴室へと向かった。






「4人だけの大覇星祭、楽しかったわねー」

「ええ。私、この間の大覇星祭は1種目も出られませんでしたから、今日はすっごく楽しかったですの。佐天が大覇星祭やり直しを言い出さなければ、こんな楽しい時間は体験出来ませんでしたの」

「そうね。今度何かお礼でもしようか」

「はいですの」



話す黒子は本当に楽しそうな表情をしていた。

佐天さんとしては、黒子だけじゃなくて、風紀委員が忙しかった初春さんにも大覇星祭の思い出を作って欲しいと思って言った事だったはずだけど。

でも、私も何だかんだ楽しかったし、こんな思い出が出来たのはやっぱり佐天さんのお陰だと思う。

何かとトラブルメーカーな部分もあるけど、こういう時はほんとに気が付くいい子だ。



「きっと、初春も同じことを思ってますの。何だかんだ事件もあったせいで忙しかったですし。なので、初春にも話を通して、3人で何か佐天さんにお礼が出来たらいいですわね」

「そうね。ところで黒子」

「何ですの?」

「今日は一緒に寝ようか」

「へ?」



ある程度で話を切り上げてそう提案してみれば、少し驚いた表情をする黒子。

私から一緒に寝ようなんて言われるとは思ってなかったんだろうなぁ。

普段黒子がたまにベッドに潜り込んでこようとする事があっても、電撃制裁してるくらいだし。

黒子からしてみれば、まさかって感じなのかも。



「えと、お姉さま。今、一緒に、と仰られましたの…?」

「うん。あ、一緒に寝るだけよ?襲い掛かってきたら放り出すわよ?」

「しませんの…!それにしても、何だか今日のお姉さまは優しいですの…」

「ま、いつも頑張ってるし、怪我も治ったし。今日の大覇星祭も勝利したんだし、今日くらいはいいかと思ったのよ。で、どうするの?」

「ではお姉さまのお言葉に甘えて、お姉さまのベッドにお邪魔させていただきますの」



少し端に寄ってスペースを空けると、恐る恐るといった感じで黒子が隣に寝転ぶ。

…そんな緊張することないのに。

少し緊張気味のその小さな体を、ありがとうやごめん、色んな気持ちを込めてそっと抱き締めてみると、余計硬直していた。



「お、お姉さま…!?」

「こんな事、滅多にすることないんだから、素直に抱きしめられてなさい」

「…はい、ですの…」



視界に入った黒子の耳が赤くなっている事にふと気づく。

いつも私に変態行動という名の過剰な愛情表現してくる癖に、こういう時は照れるのね。

可愛いじゃない。

そう思うと、背負ってた時よりも愛しく感じて、より強く抱きしめる。

腕の中で黒子が照れて更に耳を赤くして何やら少し落ち着かないようだけど気にしない。

抱き締めた黒子が温かくて何だかほっとする。

そしてそんな中、心に言葉に出来ない程の安心感を感じて気が付いた。



ああ、今分かった。私、この子の事が好きなんだ…って。

だから、隣にいない事も記憶になくて初対面みたいな対応をされた事も、とてつもなく寂しく感じたんだって。

そう感じちゃう程に、私はこの子が大切で、愛おしいんだって。

だからこうして触れてると、安心するんだって。

あんな事があって、ようやく気が付いた。

気が付くことが出来た。

今はまだ、言えそうにないけれど、きっといつかこの子に気持ちを伝えてあげよう。

記憶がなくても、怪我を増やしてまであの事件を解決してくれたこの子に。



気持ちに気づいて少し心の整理をしていたら、いつの間にか黒子は私の腕の中でそのまま眠っていた。

眠る黒子の髪をそっと撫でる。

そうして、小さく呟く。



「おやすみ、黒子」


それだけ言葉にして。

私もゆっくりと目を閉じた。





fin.
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