とある科学の超電磁砲

□知ってしまったから。
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(黒子視点)



「白井さん、好きです」

「はい?」



支部で仕事中、急に初春から告白された。

突然すぎて、惚けた返事しか返せなかった。

覚えている限り、そんな素振りはなかったと思うのだが、一体どういう事なのか。

とりあえず、初春が何か言おうとしているので聞いてみる。



「白井さん、全然気づいてなかったでしょうけど。私は、白井さんの事がずっとずっと好きだったんです」

「ずっと、って。え?初春?」

「あの日、郵便局強盗事件の時に助けてもらってからずっと。白井さんみたいになりたいってずっと憧れてて。白井さんと一緒に行動するようになって、どんどん好きになっていったんです」

「…」



そう言った初春の笑顔は、とても眩しかった。

不覚にも、一瞬ドキリとしてしまったが、それはほんとに一瞬の事。

だって、私は。



「でも、白井さん、いつからか御坂さんに夢中で。だからほんとは黙っていようと思ってたんです。でも、やっぱり伝えたくて」

「初春」

「ただ、伝えたかっただけですから。だから、返事は」

「…初春。気持ちは嬉しいですけれど、私は…その…」

「分かってます。すみませんでした、急にこんな事」

「いえ…」



初春の告白には応えられない。

でも、諦めて何処か寂しそうな顔をしている初春を見たくない。

だってそんな顔、初春には似合わない。

話を終えると、初春は何事もなかったように仕事に戻っていった。






「あ、白井さん。奇遇ですね、帰る所ですか?」

「佐天さんこそ」



仕事を終えて、支部を出て少し歩いた辺りで、佐天さんに出くわした。

初春を迎えに来たのだろうか。

少しばかり仕事が残っているからと、もう少ししてから帰ると言っていたが。



「初春は?」

「少しやり残した仕事があるそうで、もう少しだけ残るそうですの」

「そうですか。ところで…白井さん」

「何ですの?」

「えっと…」



言葉を止めた佐天さん。

一体何が言いたいのやら。

じっと私を見つめるその顔は、何処か真剣だった。

…あれ?



「あのですね、その…白井さん。私の事、どう思ってます?」

「え?どうって…その、友達だと思ってますけれど。違うんですの?」

「いえ、まぁそうなんですけど。えと…あー…。私、白井さんの事が、その、好きで」

「…!?」



それは、友達として、ですの?

それとも…。

出来れば、友達として、だと言って欲しい。



「…白井さん!!」

「はい!?」

「最初は友達として好きでした。でも、レベルアッパー事件の時に助けてもらって、それから白井さんが好きになって。その、白井さんさえ良ければ私と付き合ってもらえたり…とか…!」

「佐天さん…」



すごく真剣に、必死な表情で私に訴えてくる。

でも、私は佐天さんを恋愛対象として見た事はないし、恐らくこれからも変わらない。

それは、先程の初春だって同じ事。

初春は、分かっていて伝えるだけ伝えて、自分から身を引いた。

必死に訴えてくる佐天さんを傷つけないように断るには…。



「その、私は…先程も言いましたけど、佐天さんの事、友達だと思っていますし、友達としては好きですけれど…。その…」

「…やっぱり、駄目、ですよね…。伝えてみたら何か変わるかなと思って少し駄目元で思い切ってみましたけど…。あの、白井さんは、御坂さんが好きなんですか?」

「…」

「気を使ってくれなくていいですよ。だって、白井さんの事、見てたら分かっちゃいましたから。好きだから、気づいてて、でも気づかないフリしてました」

「…ごめんなさいですの」

「いいんです。気持ちを伝えられて、すっきりしました。そりゃ、一番は受け止めて欲しかったですけど…それは私の我儘ですから」



私の想いがお姉さまに向いている以上、初春の想いも、佐天さんの想いも、受け止められない。

私が断るだろうことを分かっていてそれでも、想いを伝えてくれた二人には申し訳なくて。

初春にもほぼ何も言えなかったけれど、佐天さんにも、ほとんど何も言えなかった。






「待ってたのよ、白井さん」

「何故貴方がこんな所で私を待っているんですの?何か用事でも?」



寮のすぐ近くまで戻ると、そこには何故か結標さんが待っていた。

最初の出会いは最悪だったが、その後偶然再会してからは、何だかんだで友人として何度か遊びに行ったりはしている程度の仲。

でも、何故こんな時間にこんな場所で。

今から何処かに行ける訳でもあるまいし。



「何処かへのお誘いなら、今日は無理ですのよ?もう門限も近いですし」

「誘いにきたわけじゃないわ。貴方に、どうしても話したい事があってきたのよ」

「話、ですの?」

「ええ。私は初めて出会った時に貴方を傷つけてしまったけれど。あの事件で、私は貴方の事が気に入ったの」



その話なら、以前にも一度聞いた気がする。

確か、再会してすぐの頃だったような。

それを、もう一度伝えに来たという事なのだろうか?



「それは、前にも少し聞きましたけれど」

「話はそこで終わりじゃなくてね。貴方と何度か遊んでいるうちに、貴方の良さに気づいちゃったのよね…まぁ、簡単に言うなら」

「簡単に言うなら?」

「貴方の事を、好きになっちゃったって事」



何なんですの、今日は。

初春、佐天さんに続いて、結標さんまで私に告白?

というか、そんなに好きになってもらうようなフラグは立てた覚えがない。

私の心にいるのは、いつだってお姉さまで。

初春や佐天さん、結標さんの事は、友人としてしか見た事がない。



「あの、結標さん…」

「まぁ、残骸の時の事考えても、貴方は御坂さんの事しか見てないんだろうけど。それでも、少しでも私の事を好きになってくれたらって思っているのだけれど、どうかしら?」

「私は…」

「…気持ちが変わる事があったなら、いつでも受け止めるから。それまで待ってるわよ、白井さん。じゃあまたね」



最後にそう言い残して、結標さんは去って行った。

気持ちが変わることがあったら…。

そんな日は、来ませんのよ。

私は、お姉さまのその人柄に惹かれ、お姉さまを慕っているのだから。






「お帰り黒子。門限ギリギリね。風紀委員の仕事?」

「ええ、まぁ…」



寮の部屋に戻ると、先に帰っていたお姉さまが出迎えてくれた。

本当は風紀委員の仕事は、門限には十分間に合う時間に終わったけれど、帰り道で佐天さんや結標さんと話していた事でギリギリになってしまった。

でも、それは言わない。

お姉さまに言う事でもない。

今日の会話が蘇る、少し頭を整理したい。



「ねぇ、黒子」

「何ですか、お姉さま」

「今日一日、ちょっと考えてたことがあってね」

「考えてた事、ですの?」

「うん。アンタに言おうかどうか悩んでたんだけど…」



何をお姉さまは言おうとしているのだろう。

何を悩んで、私に伝えようと?

私に言う事を悩んでたという事は、私には言いづらい事なのだろうが。

もしかして、最近追いかけまわしているあの殿方の事だったり…?

もし、お姉さまがあの方に対して好意を持っているのなら。

私はそれを聞いて、いつもの私でいられるのだろうか。



「あのさ、黒子」

「はい」

「ずっとね、自分の気持ちが分からなかったんだけど…。最近気づいた。あのね、黒子。私ね…」

「お姉さま?」

「黒子の事がね、好き。大好き」



え?

今、お姉さま、好きって…。

私の事が好きって。

聞き間違え、ではないですの?

本当に?



「アンタのスキンシップ、悉く跳ね除けてきたけどさ。それでもアンタと一緒にいたのは、私が黒子と一緒に居たいって、離れたくないって思ってたからだって。ほんとについ最近気づいた。跳ね除けてるのも、何というか…本気じゃなかったし、今になって思えば、素直に黒子の想いを受け止めるのが照れ臭かったからかもって」

「おねえ、さま…」

「黒子、返事聞かせてくれる?」

「私、私は…」



お姉さまの想いに応えたい。

応えようと思った。

でも、今日の出来事をふと思い出した。

きっと想いが届かないと分かっていながら、告白してきた、初春、佐天さん、それに結標さん。

3人の想いを受け止める事はもちろんない。

ないけれど、それは同時に、彼女達を傷つける事になってしまう。

そんな状態で、私はお姉さまの想いに素直に応えても許されるのだろうか。

ようやくお姉さまと想いが交差しそうなのに、心が痛んだ。

私は、お姉さまに返事を上手く返せないまま、思わずその場からテレポートしてしまった。






「お姉さま、ごめんなさい…。私も、本当はお姉さまが大好きですの…逃げ出してしまってすみませんの…」



逃げ出した先で、そうポツリと一人、呟く事しか出来なかった。





fin.
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