とある科学の超電磁砲

□渡せなかったチョコレート
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※黒子視点





今日は2月14日、そうバレンタインデー。

真剣に想いを伝えたくて、お姉さまにチョコレートを用意した。

寮で作るわけにはいかないので、佐天さんの家のキッチンを借りて。

チョコを作るために友達の家のキッチンを借りるのもどうかと最初は思ったものの、話を持ち掛けたら、佐天さんは快くキッチンを貸してくれた。

借りるだけでは申し訳ないし、後日お礼をすることになった。

ほんとは今日作りたかったが、奇しくも今日は平日。

時間が足りないだろうと思い、前日に作らせてもらい、そのまま佐天さんの家の冷蔵庫で預かってもらっている。

風紀委員の仕事が入っていたので、佐天さんの家へ伺う時間が少々遅くなってしまう事を伝えると、佐天さんは気にしないでほしいと言ってくれた。

そして。



「すみませんの、佐天さん。キッチンをお借りした上、一晩預かっていただいて。ほんとは昨日持ち帰れば良かったんですけれど、作り始めた時間が時間でしたから…」

「いえいえ、ほんと気にしないで下さい。きちんと固まりきらないまま持って帰る方が台無しになってしまいますから。それより、白井さんの想いが御坂さんにしっかり届くといいですね」

「そう、ですわね。お心遣い、感謝しますわ」

「白井さん、報告待ってますね、お礼代わりに」

「手伝っていただきましたから、きちんと報告はさせていただきますわ。良くても悪くても」


佐天さんとの会話を終えて、可愛くラッピングしたチョコレートをしっかりと鞄に入れた事を確認して帰路についた。

お姉さまを前に、私は想いを伝えられるのか、それもいつもみたいなおふざけ染みた形ではなく、真剣に。

少し不安はあるけれど、伝えると決めたのだから、迷っていてはいけないと決意を新たにする。

そうして、しっかり覚悟を決めた所で寮へと帰り着いた。

お姉さまはもう帰っていらっしゃるでしょうか。

いや、もう最終下校時刻。

帰っている事が普通ではあるけれど。

不安なのは、今日という日付。

真剣に想いを伝えると決めたけれども、お姉さまに気になっているだろう人がいる事も知っている。

落ち着かない心のままに、部屋のドアを開けた。



「あ、おかえり。黒子。今日も風紀委員だったんでしょ?お仕事お疲れ様」

「その一言で黒子の疲れも吹き飛びそうですの」

「そうだ黒子。ちょっと話したい事があるんだけど、いい?」



お姉さまのその一言に、落ち着かない心はざわざわと、波を立てた。

聞きたくない、そう感じた。

でも。



「大丈夫ですの。それで、話したい事とは、一体何ですの?」

「うん、あのね…、えっと…」



少し言い淀むその顔は、少しだけ朱く染まっていた。

予感が当たらない事だけを願って、その言葉の続きを待つ。

そうして、ようやくお姉さまが口を開いた。



「今日ってバレンタインでしょ?でね、アイツにね、告白、したんだ」

「アイツ、とはあのツンツン頭の殿方の事ですか?」

「うん。それでね…」



その続きは聞きたくなかった、逃げ出したいとさえ思った。

お姉さまのこの態度から、告白の結果はきっと…。

今なら、結果を聞かないままなら、まだ。

そう思ったけれど、逃げ出せなかった。

逃げ出してしまえば、お姉さまにいらない気を使わせてしまうかもしれないから。

そうして私は、ただ黙ったまま、その一言を聞いた。



「アイツと、付き合うことになったんだ」



ああ、やっぱり。

お姉さまがどれ程あの殿方の事を見ていたのか、痛い程に知っている。

知っているから、ずっと悩んでいた。

でも、こうして聞いてしまうと、私の想いを伝えた所で答えは分かりきっていて。

折角心に決めた覚悟も、泡となって消えていくようだった。



「そう、ですか。それはおめでとうございますの」

「ありがとう、黒子」

「でも、どうしてそれを私に?」

「んー、黒子は大事な後輩だしね、言っておきたくて」



そんな事を言われると、もう私は何も言えなくなった。

お姉さまが素敵な笑顔で話すから、応援するしかなくて。

お姉さまの恋の邪魔は出来ないから、想いは、告げないことにした。

手に持ったままだった鞄を強く握りしめる。

作っている間、佐天さんは私の事をずっと応援してくれていたのにも関わらず。

想いを込めて作ったそのチョコレートは、鞄にしまい込んだまま。

結局、渡せなかった。




fin.
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