とある科学の超電磁砲

□赤いリボンと白いリボン。
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(黒子視点)




「そういえば白井さん、リボン変えたんですね」

「私もそれ聞きたかったんですよ!イメチェンですか?」



いつものファミレス。

いつもの4人。

いつも通りくだらない話や近況なんかをみんなで話していたら、初春と佐天が私のリボンについて触れてきた。

確かに今日、私のリボンは彼女達がいつも見慣れたリボンではない。

会った時に特に追及してこなかったので、気づいていても特に触れはしないのだろうと一人納得していたが、単にタイミングの問題だったようだ。



「ずっと赤いリボンしてたのに、今日は白いリボンなんですね」

「赤も似合ってましたけど、白は白でちょっと清楚な感じがして、何というか、よりお嬢様って感じがするというか」

「赤いリボンはお嬢様らしくない、と?」

「いえいえ。そういうわけじゃ。で、何でリボン変えたんです?白井さんと言えば赤いリボンって感じでしたけど」

「リボンを変えた、と言えば。小学生の頃は黒いリボンしてた事もありましたっけ。赤いリボンに変わったのは中学生になってからですよね?」

「え、何?黒いリボン?でも、黒子なら何色でも似合いそうよね」

「ああ、そういえば初春と出会った頃は黒いリボンでしたわね」



初春と初めて会ったのは、小学生の頃の風紀委員の訓練場でしたっけ。

黒いリボンの話から、そんなことをふと思い出した。

初春の言葉通り、常盤台に入ってからリボンを変えたが、特に大きな理由があったわけではない。

ただ、中学生になった事だし、黒いリボンは小学生時代のものとして、新たに赤いリボンに変えただけの話。

今回の白いリボンに関してはそれなりの理由があるにはあるが。



「別に、リボンを赤に変えた理由については特に話すような事は。ただ、新しくなる環境に合わせてリボンも新調しただけの話ですの」

「なるほど、確かに特に深い理由ではないですね。じゃあ、今回の白いリボンについては?」

「それも特に理由はない感じですか?気分転換みたいなものとか?」

「ええっと…気分転換って訳ではないのですけれど…」



ふと隣のお姉さまを見ると、何処か自慢げな笑顔を浮かべていた。

そして、私の視線に気がつくと、こちらを見てにっこり微笑んで、話してほしいと言わんばかりの視線を向けていた。

…お姉さまは理由知ってる癖に。



「黒子」

「あれ?御坂さんはもしかして理由知ってます?何か知ってそうな顔してますけど」

「まぁね。でも、黒子から直接話してほしいなー」

「…お姉さま、意地悪ですの。まぁ、とりあえずリボンを変えた理由ですわね。そもそもこのリボン、私が自分で買ったものじゃないんですのよ」



そうして、私は。

リボンを変えるきっかけになった出来事の一端を話し始めた。









それは、昨日の夜の事。



「黒子、ちょっといい?」

「はい、何ですの?」



夕食が済んで、私は風紀委員の仕事をしていて、お姉さまはベットの上でのんびりと寛いでいたのだが。

不意にお姉さまが私の事を呼んだので、仕事の手を止めて、お姉さまの方を振り返る。

そして、お姉さまの手が隣に来るよう促していたので、そっとお姉さまの隣に座った。



「明日から衣替えよね」

「そうですわね。そういえばお姉さまと出会った時には既に夏服の時期でしたから、お姉さまの冬服姿は初めて見る事になりますの」

「うん、私も黒子の冬服は初めてだなーと思ってね。黒子の冬服姿…楽しみなのよ」

「お、お姉さま。私も、お姉さまの冬服姿楽しみですのよ!」

「でさ、ちょっと思ったんだけど」



そこでお姉さまの視線は私の頭のリボンに向いた。

リボンがどうかしたのだろうか?



「黒子ってさ、いつもその赤いリボンしてるわよね?」

「ええ、まぁ常盤台入学時からずっとこのリボンですの」

「使い続けてる事に何か理由ってあるの?よく事件解決の為に動いてるから、よく見ればあちこちちょっと傷んでるし、変えようと思ったことないの?」

「うーん…、まぁ確かに多少傷みはありますけれど、そこまで気になるほどでもありませんし。理由があって使い続けているというわけではありませんけれど」



リボンを片方解いてよく見てみると、思っていたより傷んでいた事が分かる。

まぁ、予備はあるので、これ以上傷めばそちらに変えるだけだが。

それにしても、それなりに大事に使ってはいるが、その割に入学してまだ1年も経っていないというのに、これだけ傷んでいる。

風紀委員をしているから、それは仕方のない事なんだろうけど。



「そっか。じゃあさ、少しの間だけ目、瞑っててくれる?」

「…?はいですの」

「私がいいって言うまで目を開けちゃ駄目よ」



お姉さまに言われるがまま目を閉じる。

何故目を閉じる必要があるのか分からないけれど、お姉さまの事だから何か理由でもあるのだろう。

いつになったら目を開けていいと言われるのだろうと思いながら目を閉じていると、髪が解かれたのが分かった。

…?

お姉さまは何をなさろうとしているのだろう?

疑問に思いながら、それでも、まだお姉さまからいいと言われてないので目は閉じたまま。

お姉さまが優しい手つきで髪に触れているのが分かる。

解かれた髪は、どうやら再び結ばれたらしい。

見えていないので確証はないが、一度下ろされた髪は、いつものツインテールに結ばれている感覚がした。



「黒子、もう目を開けていいわよ」

「お姉さま、何なさってましたの?一度髪を解いたかと思えば、また結ばれていた様子ですけれど」

「うん、結び直したわよ」

「…?何の為に?」

「それはね…。黒子、はいこれ」

「手鏡、ですの?」

「それで今、自分の髪がどうなってるか見てみなさい?」

「見てって…あ…」



お姉さまに渡された手鏡に、いつものツインテールが映っている。

それだけならいつも通りだし、特に何も思う事はなかったのだろうが。

そこには。

いつもの赤いリボンはなかった。

手鏡に映っていた私の髪は、白いリボンでツインテールに結ばれていた。



「お姉さま、これは…」

「いつも赤いリボンだからたまにはどうかなって。似合ってるわよ、黒子」

「あ、ありがとうございます。ですけど、このリボン、どうしたんですの?」

「この間出かけた時に見付けたのよ。黒子に似合いそうだなーって思ってつい買っちゃった。もし気に入ったなら使ってくれると嬉しいんだけど?」

「使ってって…え、頂いていいんですの?」

「だって、黒子にと思って買ったんだもん。私はリボンとか使う事ないし、むしろ貰ってくれないと困るっていうか…」

「そういう事でしたら。大事に使わせて頂きますの」



物凄く優しい笑顔で告げられれば、受け取るしかない。

受け取らない理由もないが。

お姉さまから何かを頂ける事など滅多にない。

風紀委員をしている以上、どうしても多少傷んでしまう事は避けきれないだろうが、それでも出来る限り傷つけないよう大事に使おうと心に決めた。

先程話していたように、ちょうど明日から衣替え。

冬服に変わるとともに、リボンもお姉さまから頂いたこの白いリボンに変えよう。

明日、このリボンを付けるのが楽しみですの。









「という事がありましたの」

「なるほど。御坂さんから貰ったものだったんですね」

「それなら御坂さんが理由知ってるのも当たり前ですね。というより、御坂さんが理由作ったようなものですもんね」

「でもわざわざ自分で言わずに白井さんに全部話してもらうんですね」

「まぁ、うん。聞かれてるのは黒子だったし、いいでしょ?」



さらりとそう答えているお姉さまだけれど、私は気づいた。

お姉さまが、よく見なければ気づかない程度ではあるものの、少し照れている事に。

話す前は何処か自慢げな顔をしていたが、その実内心は少し照れ臭かったのかもしれない。



「と、リボンを変えた理由はそんな感じですの。折角ですので当分このリボンを使うつもりですわ」

「何だか嬉しそうですね、白井さん」

「お姉さまから頂いたものを身に着けているんですから、当然ですの」

「そこまで喜んで使ってくれると、ほんと買った甲斐があったというか」

「そんな事言いながら、御坂さんも実は使ってもらえて嬉しいんですよね?分かりやすい表情してますよ?」

「白井さんに似合いそうだからってわざわざ買うくらいですもんね。御坂さん自身はリボン使ってないですし、もし白井さんが受け取らなかったらどうするつもりだったんですか?」

「うーん…、今更だけど、受け取ってもらえないって事は全く考えてなかったわね…」

「ああ、完全に受け取って貰える前提だったんですね」

「まぁ、私もお姉さまからなら受け取らない物はないと思いますし、喜んで頂きますけれど」

「さすが白井さんですね」



まぁ、もしもお姉さまが下さるものがゲコ太などのファンシーグッズだったら、受け取るかどうか少し悩みそうだが。

それでも、きっと最後には受け取るんだろう。

私の趣味に多少合わずとも、折角お姉さまから頂けるわけなのだから。

何となく、頭で髪を結んでいる、その白いリボンに触れる。

お姉さまから頂いたものだと思うと、触れただけなのに心が弾んで。

一言、お姉さまに伝えたくなった。

既に昨日伝えているけれど、もう一度。



「お姉さま、リボン、有難うございます。嬉しかったです。大事にしますの」



その言葉に。

お姉さまは、昨日と同じように優しい笑顔で笑っていた。



fin.
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