偏った書庫

□紫陽花
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雨が降って、たとえ他の物は沈んでしまっても。
紫陽花だけは雨の中でこそ、キレイに咲くのだ。

梅雨らしい雨も訪れないままに紫陽花だけが
枯れてしまうのは、とても不条理。
雨の中で、キレイに咲く為に生まれたのに。
逢えないままに死ぬなんて。

もうちょっと、我慢して。
きっと逢えるから。
共に居るべき相手に。

…なんて、僕が言ったら君は怒るだろうか。

『貴方はもう、出逢ってしまったからそんな事が
言えるのでしょう?』と。

慣れた裏道、少し寂しげな紫陽花の道を抜けると見えてくる。
のんびり歩く手には傘。
今日は夜から降るって言っていた。

当たると、いいね。

僕はちょっとだけ、抜け駆けします。

もし雨が降っても、傘を使うことにはならないと思う。
その時はきっと、車の窓から君を見るから。
やっと出逢えて、嬉しそうに咲く君の姿。
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