偏った書庫
□迎えにいこう
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「もう読み終ったんですか?」
「出掛けるぞ」
「えっ!?」
予想外の発言に僕が状況を理解する間を与えず、
栞を挟んだ本を置いてさっさと寝室へ着替えに行ってしまう。
僕も負けじと追いかける。
「緒方さん、どこに行くんですか!?
外、濡れちゃいますよ!それに僕、この格好じゃ…」
「車から出なけりゃ平気だろ?」
慌てた様子の僕の方が、さもおかしいかのように余裕たっぷりの声が返ってきた。
「ドライブに行こう、ドライブに。」
愛車の鍵を僕の鼻先で揺らして、緒方さんが微笑った。
一度言い出すと緒方さんは聞かない。
普段着だから嫌だとかなんとか言ってみたけど、
結局車に乗せられてしまった。
「雨の日は滑りやすいんですよっ?
それをドライブだなんて…」
「大丈夫だよ、大降りでもないし。気分転換。」
「そんなこと言ったって、景色とかよく見えないじゃないですか…。」
外を見て、ふぅ、と溜め息をついた。
ドライブの楽しみって変わる景色を見たりすることじゃないんだろうか。
皆白っぽくて灰色になずんでよくわからない。
「籠りっきりは良くないだろ?
それに、運転してるだけで楽しい。」
「…それって、楽しいのは緒方さんだけなんじゃ…。」