偏った書庫

□真ん中。
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だけど今日は運悪く、
自分を上手く叱りつける一歩手前で電話が鳴ってしまった。

僕の携帯電話を鳴らすのなんて、大抵誰だかわかってしまう。
ましてや、「着信メロディ」なんて一人にしか設定していない。
それも僕は分からないから、あの人が設定してくれたんだ。

考える前に手が動いていた。
声を聞いた途端に理屈や説法は忘れてしまった。


「どうしたんですか、緒方さん?」



リーグ戦の話とか、他愛ない世間話をして、僕がすっかり安心しきっている時に
何気ない様子で緒方さんが言った。

「手を怪我した」って。
頭の中身が消し飛んで次の瞬間にぐちゃぐちゃになった。




「対局は!ちゃんと打てるんですか!?」

「落ち着けよ、俺が怪我したのは左手だ。対局には支障ない。」

僕はこんなに心配しているのに、あの人は電話の向こうで笑ってるみたいだ。
なんて能天気なんだろう!

「笑いごとじゃないでしょう!」

「いや、最初に対局の心配をする所がお前らしいと思って…
原因とか、生活に困らないかとか、二の次だもんな。」


…こういう所を、僕はよく周りの人達に笑われる。


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