偏った書庫

□現在、過去、そして。
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「今年は出さなかったな。」
「何をですか?」
「雛飾り。今年は明子さんも先生もいないから…。」
「あ、そういえば…。」

毎年、塔矢家には立派な七段飾りの雛人形が飾られていた。
明子夫人が嫁入り道具の一つとして持って来た豪奢なものだ。

もちろん塔矢家には女の子はいない。
だが誰も嫌な顔をするものは無かった。
むしろこの家に訪れる者は風物詩のように毎年華やかで雅やかな人形を愛でていた。

だが、今年出されていない。
明子夫人がとりしきっていたものだから、彼女が不在の今、
いつも飾られていた和室はしぃんと静まりかえっている。

「あれってしまいっぱなしにしてるとカビとか生えるんじゃないか?」
「どこにしまってあるかくらいは知ってますけど…。」
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