丸井生誕祭BOOK
□丸井ブン太で20題
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※ヒロイン死ネタ
3.指先
声がでない代わりに涙ばかり溢れている。
どうしてこんなにも悲しいんだろう。
どうしてこんなにも脆いんだろう。
目の前にいる君は息をしてなくて、心臓の動きを計る機械から不快な音がする。
たくさんのパイプに繋がれた君は、青白い顔をしてただひたすら眠っている。
「…はるか…」
「うっ、うぅ…っ」
隣ですすり泣く赤也。
はるかの手を握り大声で泣くはるかの母さん。
はるか、と呼べば振り返って笑ってくれた。
笑顔が可愛くて、無邪気で、優しい、だいすきで大切なマネージャー。
あぁもう彼女は笑ってくれない。
「はるかっ…はるか!」
「落ち着け精市!取り乱したところではるかはっ…」
「わかってる!わかってるよ!でも!」
涙を溢れさせてはるかを呼び続ける幸村。
それを抑える柳。
「っ…医者のくせに!こぉんな女一人も救えんのか!ふざけるん」
しん…と場が静まり返ったのは、俺が仁王をひっぱたいたからだ。
取り乱していた幸村すら、目を見開いている。
赤也も、はるかの母さんも、驚いた顔でこちらを見ている。
「医者のせいじゃないだろぃ。…ここは病院なんだから、今は落ち着け」
しばらく真顔だった仁王が、くしゃっと顔を歪めて崩れ落ちた。
俺はゆっくり眠ったはるかに歩み寄った。
触れてみると、指先から僅かな体温が伝わる。
「まだ、あったかいのにな」
指先から体温は伝わるのに、もうこの世に君はいないだなんて。