丸井生誕祭BOOK

□丸井ブン太で20題
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1.鼓動



「丸井、日誌かけた?」
「…」



俺には苦手なやつがいる。
隣の席でクラス委員の鈴木はるかだ。

いかにも真面目っ子。

黒いセミロングの髪、切れ長な目、整った眉。
細い青縁の眼鏡。



「…そのあからさまに嫌そうな顔、やめてくれない」



嫌そうな顔をしてるのはどっちだ。

鈴木は切れ長の目を更に細めた。



「目付き悪いんだよ、優等生」
「アンタに言われたくないんだけど、問題児」
「うっせぇぶりっ子」
「うっさいタラシ」



こいつとは絶対に合わない。
本能がそう告げてるから間違いない。
というより俺はこいつが本当に苦手だ。



「口答えすんなよぃ」



そう言って眼鏡を取り上げると、鈴木は顔色を変えた。



「かっ…返しなさいよ!」
「やなこった」
「返してってば!」



バタバタと俺の手を追いかける鈴木。
ときたまスカートがめくれる。

眼鏡をしない方が絶対に良いのになんで眼鏡してるんだろう、という疑問が頭の中にうかんだ。
しかもかなり必死で取り返そうとしている。



「きゃっ…」
「うぉ」



勢いあまった鈴木のせいで、椅子から落ちた。
そのうえ鈴木が俺を押し倒している。



「…っ」



顔は真っ赤で少し潤んだ目をしている。
この体勢でそれは少し辛い。



「隙あり!」
「!」



鈴木は、俺の手から眼鏡を取り上げて一目散に走り出した。
俺が起き上がったとき、彼女は扉からこちらを見ていた。



「ばーかッ」



教室に取り残された俺は、呆然と突っ立っていた。



「…なんだ、これ」



脈打つ心臓が少しだけ早く感じた。
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