novel

□†電話
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「きょ…仕事…失敗したの…ずっと…頭…はな…くて…」

途切れ途切れに聞こえる小さな声を聞き漏らさないように耳を澄ませる。彼女がしゃくりあげて言葉が詰まっている間に受話音量を最大に上げた。

「仕事?上手くいかなかったのか?」

途切れ途切れのその言葉を繋ぎ合わせて理解する。慣れれば意外に分かるものだ。

「…うん」

人一倍落ち込みやすい彼女のことだ、きっと失敗なんて大したことないんだろう。それでも気にして一人泣いている。そんな彼女が俺は放っておけずにいた。

「大丈夫か?そっち行くか?」

電話では埒があかない。涙を止める術も無いわけではないが、それも電話越しでは役に立たないだろう。

「い…今…?」

少し戸惑いを含んだ声で彼女が言う。時間を考えれば当然かもしれない。

「そう、今。お前が望むなら5分…いや、3分で行ってやるよ」

少々強引な言い方に自分でも苦笑いしてしまう。彼女にもその空気が伝わったのか微かに笑う声が聞こえた。

「…時間大丈夫?大丈夫なら…来てほしい」

遠慮がちに答える彼女の声が庇護欲を掻き立てる。返事を聞く前に動き出していた俺は右手に携帯、左手に愛車のキーとブルゾンを掴んで部屋を出た。


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