novel

□†夕暮れ道
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『今 電車の中。あと20分くらいで着くよ』

無事に送信されたことを確認してから再び携帯をポケットにしまう。網膜に焼き付けるように燃える夕陽を見ながら静かに瞼を閉じた

「蒲公英丘〜。蒲公英丘〜」

車内アナウンスにハッとして飛び起きる。少しのつもりがすっかり寝入ってしまい、危うく乗り過ごすところだった
進行方向左側のドアからホームに降りると、空は先程の茜色から藍を何度も塗り重ねたような深い青に変わり、白く細い月を浮かべていた

吐く息は白く冬の訪れを感じさせる。改札を抜け家路に向けて歩き出すと沈む夕陽が見えた。そのグラデーションに目を奪われ、しばし佇む

「前に夕陽を見たのなんていつだったかな…」

仕事を変えたばかりで慣れるのに必死になり周りに目を向けることを忘れていたのかもしれない。季節の移り変わりも気温の変化でしか感じられていなかった。如何に余裕が無かったかが分かるというものだ

「ダメだなぁ…俺」

そう考えて改めて周りを見ると全てが新鮮に感じられる。そのまま帰ることが惜しく思われて、少し遠回りして帰ることにした

『ごめん、ちょっと寄り道してくる。30分後くらいには着くようにするから』

「パコっ」
携帯を閉じると軽い音が響き、辺りの静けさを引き立たせた

「よし」

真っ直ぐに伸びる帰り道を右に曲がり、当てずっぽうに進んでいった


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