novel
□†ひこうき雲
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「今、何してた?」
電波に乗ってやってくるその声は、遠く離れているとは思えない程クリアな響きで私の耳へ届いた
「大学にいるよ。さっき着いたの」
私の声も彼にはそう届いているのだろうか?そんなことを考えながら会話を続ける
「大学か。後でかけ直した方がいい?」
「うん…もう授業始まるから行かないと」
「そうか、頑張れよ」
「うん、じゃあ後で」
終話ボタンを押して、また一つ小さな溜め息をつく。私がこの大事な時期に今ひとつ集中出来ないでいるのは、この恋人のことが原因だった
遥とはサークルの先輩・後輩というありがちな出逢いから始まった。人懐っこく明るい遥は中心的存在で、私には近寄り難い人だった。元々あまり人付き合いの得意ではない私は、強引な勧誘を断りきれずに入ったサークルに興味も持てず、ただぼんやりと盛り上がる集団を見ていた
そんな私に遥が声をかけたのは
「なんか放っておけなかったから」
だそうだ
人の輪を避けるようにして一人でいる私に、遥は上等な微笑みと柔らかい雰囲気をもって私の心へ入り込んできた