novel

□†ありがとう
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苦しくて、切なくて、分かってほしい、知ってほしいのに、それが叶わないことへの悲しみ。彼女への嫉妬。そんな醜い感情から彼に故意に冷たい態度をとった時期もあった

そんな時、彼は悲しそうに目だけで笑い

「ごめんね」

そう言って、傷ついた自分より傷つけた私の心配をしては私を泣かせるのだった

「颯太を失うことよりも悲しいことなんて、私にはきっと無いと思う。それくらい、颯太は私にとって大切な人なんだよ」

不意に告げたその言葉に驚きを隠せない表情で、でもとても嬉しそうに彼は言った

「ありがとう。沙耶の中に自分の居場所があるなんて、これ以上嬉しいことは無いな」

本当に嬉しそうに言う彼の顔を見て私も嬉しくなった。でも…

「ウソツキ」

聞こえるはずのない小さな声で、一言だけ呟いた

私の中の一番は颯太だけど、颯太の中の一番は私じゃない。その事実が私の心を黒く塗り潰していった


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