novel

□†ありがとう
2ページ/12ページ

彼の笑顔が好きだった

彼のその目が私を捉え、そして私だと認める

「沙耶」

私の名を呼び、少し細い目を更に細めて柔らかく微笑む。普段の顔から笑顔に変わるその瞬間が好きだった

その笑顔を私だけに向けてほしいと何度願っただろう。そう願う度その想いを無理矢理打ち消し、打ち消しては溢れ出る想いを必死に隠し続けた

彼はいつでも彼女の姿を追って、惜しみない愛を彼女に捧げていた
その目も、その口も、その腕も、その手も、その足も、颯太の全てが彼女に与えられていた。そして、彼女も同じように彼女の全てを颯太に捧げていた

私はそんな二人を何も言えずに見ていることしか出来ず、口に出せない想いは行き場を無くし、心に溜まる一方だった


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ