novel

□†knock
1ページ/2ページ

†僕

なんとなく眠れなくて読みかけの本を開いた。目で追うその文章も頭には入ってこなくて、仕方なく進まないままのページに栞を挟む。コンポが無い代わりにウォークマンにMDをセットして音を鳴らす。気に入りのアーティストの透明な歌声も、今夜はどうしてか響いてこない。

「なんだよ…」

誰に言うでもない文句と溜め息。吐いた途端に疲れてしまった。
カーテンを開けると薄い雲に覆われた月が見え隠れしていた。東京でも都心とは言えない、端にあるここの空は微妙な濁りを見せる。月も星も見えないわけではないけれど、見えると言うには寂しく思える程度にしか見えない。でも、それが僕の中の空だった。

今夜は満月だ。普段より紅いその球体は、見ていても飽きない魅力に溢れている。四角く切り取られた世界にそれは小さいながらも堂々と輝いて見えた。

ベッドサイドに置かれた時計を見ると0時を回ったばかり。まだ起きているかな…そう見当をつけて僕は動き出した。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ