novel

□†電話
1ページ/5ページ

「…もうヤだ」

深夜2時7分
大抵の人間は規則正しい寝息をたてているこの時間に涙声の彼女は俺に電話を寄越した。

「起きてる?」
というような確認も
「遅くにごめんね」
というような気遣いも無く、ただただ自分のその場の感情で行動する。彼女はそんな人間だった。しかし、それでも彼女の奔放な行動は不快感を伴わない。それが不思議でならないが、だからこそ苛立ちもせずにいられるのだろう。

「どうしたよ?」

ベッドサイドのライトに手を伸ばし、スイッチを入れながら答える。その音が聞こえたのだろう

「ごめん、寝てた?」

彼女が今まさに気づいたといったように聞いた。

「ん?あぁ…正確には寝ようとしてた、だな」

声では気づかないものなのかとチラリと思ったが、彼女の今の状態ではそこに意識はいかなかったのかもしれない。

「ごめん…」

そのまま消えてしまうのではないかと心配になるくらい、か細い声で再度彼女が謝る。あぁ、だから放っておけないのだ。

「いや、いいって。それで今日はどうした?」

相変わらず涙を流し続けているらしい彼女に理由を聞く。泣いている人間の言葉は聞き取りにくい。それでもそのまま泣かせていることも出来ないので、俺は出来る限り話してもらうことにしているのだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ