novel

□†坂道
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いつの間にか蝉の鳴く声も無くなり、代わりに軽やかな鈴虫の音が響いてくる…そんな季節になった
風に揺られる前髪をかきあげ見上げた先には、雲を纏った空に抜けるような蒼が視界いっぱいに広がっていた

「空が高いなぁ…」

ついこの間までうだるような暑さの日々を過ごしていた筈なのに、今は通り抜ける風が心地いい。まだ少し暑さは残るものの、そこかしこに感じられる秋の気配に私は嬉しくなった

秋は好きだ。四季の中で一番短い季節だけど、私はこの季節特有の切なさを含んだ雰囲気を何よりも好んだ
普段何気なく過ごしていてこんな気持ちになることは無い。何かがあって切なさを感じるというのが一般的だろう。でも、秋はただ日常を重ねているだけで切なさを感じさせる。それは、四季の中で一番短い季節だからこそなのかもしれない

少し傾き始めた陽を背にして、私は左手首に着けた腕時計に目を落とした


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