猫太郎の作文…2
□幸せの始まり
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清々しい朝。
オレの新しい日常は、ここから始まる。
「…起きろぉ、アル〜」
キラキラした朝日の差し込むベッドの傍らで、キッチンから持参したフライパンをお玉でガンガンと叩く。
頭が痛くなるような騒音だが、まあ仕方ない。
普通の起こし方で絶対に起きないコイツ相手では。
「…んぅ〜」
けたたましいその音に、ベッドで蹲っている我が弟は嫌そうに眉をひそめ耳を塞ぐと…また寝息を立て始める。
(やっぱ起きねぇか…このレベルでも)
はぁ、とため息を一つして目覚ましにならない目覚ましを止めた。
失われた肉体を取り戻してもう1ヶ月。
その体は失った頃の10歳のままだったが人の肉体を取り戻した弟とオレは、今セントラルの郊外に家を借りて暮らしている。
んで、今のオレの立場っていうか置かれている状況は…はっきり言えば『お母さん』。
朝早く起きて、朝飯作って掃除して洗濯して…。
鋼の錬金術師として国中にその名を刻ませたオレが…黒とはいえエプロン着てお玉片手にフライパン叩いてんだぞ、おい。
あ〜、こんな姿…絶対軍部の連中には見せらんねぇ…。
何言われるかわからないし。
「…ったく、何時間寝てるんだ。おい、起きろ!!」
いい加減イライラしてきたオレがその小さな肩を掴んで揺らすが、アルは未だに夢の中。
ホント、寝汚ねぇなぁ。
毎日毎日寝てばっか…。
それを起こしてやるオレってなんて健気なんだ…。
しかし、そんな健気な兄を完全に無視して我が弟は嫌そうに顔をシーツに押し付けた。
「…やだ…」
オレをナメてんな…こいつ…。
アルはものすごく寝起きが悪い。
昔は違ったんだ。
決まった時間にはきちんと起きて母さんの手伝いをする程だった。
寝起きが悪かったのはむしろ、オレ。
下手すりゃ水ぶっかけられても寝てたしな…。
アルがここまで寝る理由…、それは恐らく7年近く眠る事を忘れていた肉体が異様に睡眠を求めているせいだろう。
だから、本当なら眠りたいだけ眠らせてやりたいのだが…そのままにして置くと3日は眠り続ける事になるので、それはやはり不可能なのだ。