短編的資料集
□輪廻〜黒の章〜
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「…」
ふと我に返り水面に写る自分の顔を見つめる。
長めのマズル、三角の耳、顔中びっしりと生えた漆黒の獣毛、そしてその獣毛に埋もれた血のように紅い狂眼と呼ばれる瞳が妖しく輝いている。
「…くっ…!!」
水面に写る顔を引き裂くように水面をはじく、そして立ち上がると洞窟の出入り口に向かって歩き出した。
この世界を消し去ることを望んでいるはずなのに人々を殺し街を破壊するごとに気分が沈みまるで心に靄が掛かったように苦しくなる。
しかし、その気持ちも狂眼の前ではなくなってしまう。
人々を殺し、破壊するたびに心に掛かった靄が晴れていくような感覚がある。
全てを破壊し終えた時にはスッとし、気分がよくなる。
自分が負った傷の痛みでさえ心地良く感じてしまう。
だが、狂眼の力が薄れるにつれ消えていた理性が再び生まれ、心には再び靄が掛かる。
「クソッ…いったいなんなんだ…この不快感は…」
洞窟の入り口に近づくと何かが外から聞こえてきた。
最初は自分を狙っている者が外で呪文を詠唱してるのかと思い身構えたが、それは呪文ではないとすぐにわかった。
呪文詠唱の時に起こる特有の空気の振動は無く、代わりに心地良い旋律があったからだ。