短編的資料集
□輪廻〜黒の章〜
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深き深き樹海…その樹海の中に小さな洞窟があった。
その洞窟の中には蠢く黒い影が一つ。
「ぐっ…ぅう…」
全身を漆黒の獣毛に包んだ狼獣人の少年がうめき声をあげていた。
その右腕からはおびただしい量の血が流れ、腕から手、指先先へと伝わり獣毛へと染み込ませ冷たい地面に血の跡をつけてる。
しかも腕や地面だけでは無く、体中所々血の跡がついている。
しかし、この血は彼のものではない…。
「ふぅ…ふぅ…ぅぐっ…!!」
少年が強く呻くと右腕の傷は収縮を始め閉じていった。
「はぁ…はぁ…」
少年はぐったりと壁に背をもたれかけ息を荒げながら洞窟内の闇をボーっと見つめる。
しばらくすると荒げていた息が落ち着いてきた少年は洞窟の奥にある泉へと歩きだした。
泉まで行くと少年は両手で水をすくい体に浴びせる。
冷たすぎるほどの泉の水に体を震わせながら体中についた血を洗い落としていく。
「…」
全身の血は落とした。しかし、彼は洗うのを止めない。
何度何度も必死に獣毛を擦り続ける。
まるで落ちない汚れを落とそうとするように…。