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□エゴイスト
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「…沙稀」

呼びかけても答えてもらえない事などわかっている。
カインが沙稀の中で唯一、ただ一つだけ嫌なところだった。

―俺を、見てくれてますか…?―

シャワーから流れ出したままの水の音だけが浴室に響く。
沙稀の肩が上下するのに合わせて錯覚の様な荒い呼吸が脳裏に張り付いて離れない。

「…っ!!」

カインが一瞬眼を伏せた瞬間、突き飛ばす様に壁に体を押しつけた沙稀が乱暴に首筋に噛みついた。
爪先が冷えて行く様な痛みに、思わず沙稀の肩に爪を立てる。

「う…っ…ぅ…ぁ」

痛い。
痛い痛い痛い―…。

心も体も、悲鳴を上げそうだった。
どうしてだろう。
自分も、沙稀も信じられなくなってしまいそうだ。
こんな事は一度もなかったのに。
カインがカインである為に必要なものが沙稀であって、沙稀が沙稀でなければカインがカインである意味がなくなってしまう。

―俺は…、俺は…―

返された体を後ろから冷たい壁に押し付けられた。
頬に当たるタイルの感触が酷く無機質で、何故か酷く落ち着く様な気がする。
温かみのない心で、それでも沙稀の手は沙稀の手で、背中を滑る舌先の感触も、沙稀のもので―…。
決して人前で涙など流す事が無いのに、この時だけは、その紅い瞳から雫が落ちる。

不意に石鹸の香りが鼻先を掠めた。

「…っ」

滑る感触が後孔を這う。
そして次にそこへ感じた感触に思わず体が硬直する。

「だ…っめ、沙稀ッ…!!」

振り返ろうと体を捩った瞬間に、思わず息を飲み込んだ。
否、飲み込まざるを得なかった。
ぽたり、と足元に落ちる雫に自分の体を疑う。
脚が痙攣して脳がしびれ、背骨の中を這う様な快感。

―そんな…っ―

一気に最奥まで穿たれて、自分はいったいどうなった?

「う、ぁっ…ぁ、っ」

その先を考える暇など与えないという様に、沙稀が腰を掴んだ。

「…カイン…」

鼓膜を直接舐めるかのように囁く沙稀の声。

「…!」

どうして、自分の名前を呼ぶのだろう。
今まで沙稀がこうなって名前を呼んでくれた事があっただろうか。

「すまない…」
「さ、沙稀…?」

その上謝罪の言葉。
どうして、そんな言葉を…?
わからない状況でカインの頭の中は混乱する一方だった。










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