SS

□ツミとバツ
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「貴様は、そんなものでもつかわないと私を誘えないのか



薄く形の良い唇が、冷酷に意味のわからない言葉を放った。
理解できずに金の瞳を見つめるノアールの半開きになった唇に、するりと冷たい指先が滑る。
僅かにセリオスの表情に柔らかな笑みが浮かんだような気がして、少しだけ気を緩めた瞬間。

「…ならば、その気にさせてみろ」
「…!」

その、唇で。

今度は、説明されずとも言われている事が理解できた。
鼓膜を揺るがしたのは、冷徹な声だった。
一瞬でも、死の淵から救われた気がしたというのに、すぐさま崖下へ突き落された様な気分になる。

「まさか、出来ないとでもいうのか?あんな痴態を晒しておいて…」

喉の奥で笑いながら、冷酷な笑みを張り付けた顔がそう言う。
そんな顔でさえ、この男にはよく似合っているようにすら見えた。

「…っ」

ノアールは上がりそうになる嗚咽を堪えて、ソファの背もたれに体を預けたセリオスのベルトに手をかけた。
震える指先は縺れて、なかなか思う様に出来ない。
セリオスはそんなノアールの様子も、さして興味がないような眼で見つめていた。
ジッパーを降ろし、あんな痴態を晒したというのに何の反応も起こしていないそれを取り出すと、覚束ない手つきで上下になぞってみる。

「……」

セリオスはその仕草を、何も映さない宝石の様な金色の眼でじっと見つめていた。

「…っ…」

どうしていいかわからなくなり、ノアールは縋る様にセリオスを見上げるが、

「その程度で、本気になるとでも?」

冷酷な一言が返されるのみ。
じわりと視界が滲んだ様な気がした。
湿気を含んだ長い睫毛が伏せられ、ノアールは恐る恐る手の中のものに舌を伸ばす。
舌先に感じた苦くも柔らかい感触に、思わず体がずくりと疼いた。
この男に、セリオスに、抱かれた感覚が俄かに蘇る。
体の奥まで暴かれる様な、飲み込まれるような快楽が鮮明に思い出される。

その感覚を、今すぐに味わいたい…。

「っん…っ…っふ…」

そう思えば、もう無意識のうちのそれを口内へと誘っていた。
喉の奥まで咥え込み、舐め上げて、吸う。
徐々に体積を増すそれが口内に含みきれなくなり、鼓動を感じる粘膜に舌を這わせながら、ノアールはいつの間にか片方の手で自らの後孔に指を挿しこんでいた。

「っァ…ん…ん…っ」

他の事は何も考えられない。
ただ、ただ早くこの体の奥に疼く熱に触れて欲しい。
それだけを考えながら必死に下を這わせ、唇で吸う。

「…っ」

セリオスの唇から艶めかしい吐息が漏れた。

「ノアール…」

不意に頤を捕らえられ、合わされた瞳。

「……」

無言のまま腕を引かれ、そのままセリオスの膝の上に乗り上がった。

「…どうされたい?」
「…っ」

セリオスは冷笑を浮かべながらノアールを見上げている。
先程口で湿らせた先端が、掠める様にノアールの後孔へ触れ、焼ける様な感触に一層体の熱が上がった。
最早、これ以上の折檻はありえない。
早く、早くこれを…。
ごくり、と生唾を飲み込み音が妙なリアリティで脳髄を刺激する。

「…ぁ、っあ…ッ!!」

腰を掴まれ、ゆっくりと焼けた楔が体の中へ埋め込まれていく感覚。
押し広げられ、粘膜が纏わりつく感触。
先程の物体と、自らの指でどろどろに溶かされた後孔は易々とその楔を飲み込んでゆく。
自分が何を見ているのか、聞いているのか、どんな声を上げているのか全く分からなかった。
ただ、後孔に感じる熱が徐々に体の中に埋め込まれていく感触だけが脳内を統べる。

「―――――ッ!!!!」

許容しきれなかった快楽が、弾け飛んだ。
体の奥まで達して、脈打つ熱が燻ぶる火種に触れた様な気がする。

「…淫乱な」

冷笑が鼓膜を揺さぶった。

「どうした…好きな様にしてみろ。さっきは随分とよさそうだったではないか」

自分で動け、と、この男は言うのだろうか。
先程自分で後孔を掻きまわしていたように、セリオスの上で動け、と。

「っ…」

下から見上げてくる金色の視線が胸に突き刺さる。
ノアールは震える手でセリオスの肩を掴んだ。
セリオスの少し冷たい指先が撫でる様に腰のラインをなぞる。
もう、どうにでもなればいい。
ノアールはゆっくりと腰を動かし始めた。
やんわりと収縮を繰り返す体内で、少しずつ体積を増すセリオスの感触が更にノアールの思考を溶かし始める。

「あ、っん…ン、ッ」

一番敏感な場所に擦りつける様に腰を動かせば、セリオスの形のいい唇から吐息が漏れる。
赤く光る舌先が唇を舐める仕草にさえ自身がしびれる様な錯覚。

「…っん、っ」

不意に頭を引き寄せられて、眼を離せなかったセリオスの唇がノアールのそれに重ねられる。
薄く開いたくちびるから、先に舌を出したのはノアールだった。
どこまで淫乱なんだろう。
何処か冷静にこの状況を見ている自分がいたが、それすらももう崔淫剤にしかならない。

「セリオス…っ」

回らない呂律で名前を呼べば、口付けが深くなる。
絡み合う舌先。
どちらのものとも分からない唾液のが名残惜しそうに銀糸を引いた。

「…本当にお前は、馬鹿だな…」

冷たい一言。
嘲笑を浮かべたセリオスの金色に、自分がどう映っていようがもうどうでもいい様な気がした。










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