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□バレンタイン企画!!vol.7
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刹那の部屋の前についた緋奄は深呼吸をして乱れた呼吸を整えると、ドアノブを捻って音もなく扉を開けた。
窓が開いているのか、冷たい夜風が吹き込んでくる。
砂漠の月明かりが差し込むテラスに探し人の姿を見つけた緋奄は、その背後に忍び寄った。

「刹那…」

名前を呼べば、ぴくりと肩が跳ねる。

「…掃除終わったのか?」

振り返りもせずに刹那が言った。
ふーっと吐き出された煙草の煙が冷たい空気に流れて消える。
何を言おうか、今更頭の中が空っぽになったように思い浮かばない。
緋奄は暫く黙ったまま手にしたチョコレートを見つめると、それを一つまた一つと口へ運んだ。

「……?」

何も言わないのを怪訝に思った刹那が振り返り、驚いた表情で緋奄を見詰める。

「お、おいお前…」

焦ったように刹那は言うが、緋奄は黙々とチョコレートを食べた。
時折じゃりっとしたものが歯に障ったが、そんなことはどうでもいい。
味わう事など忘れて全てを食べ終わると、緋奄は空っぽになった箱を刹那に向かって突き出した。

「…うまかった。もっかい作ってくれ」
「何言って…」
「お前が作ったのが食いたいっつってんだよ」
「……」

刹那は呆気に取られたような表情で緋奄を見ている。
一気にたくさんのチョコレートを口にしたせいで喉が乾いてたまらなかったが、緋奄はじっと刹那を見つめたまま動かない。

「私が作ったわけじゃ…」
「エリザが言ってたぜ。お前が作ったってさ」
「はっ…そりゃアイツが嘘付いてんだな」

刹那は鼻で笑う。

「ふざけんな。殴られたんだぞ」

未だに熱を持っている頬を指さすと刹那が吹き出した。

「……やるなぁ…アイツ…」

刹那は緋奄の赤くなった頬に手を当ててそう言う。
夜風に冷やされた指先が心地いい。

「…なぁ、俺の為に作ってくれたんだろ?」

その手を掴み、緋奄はそう訊いた。

「さぁな…」

意味深な笑顔を浮かべて刹那が返す。

「…そう思いたければ、そう思えばいいんじゃねぇか?」

相変わらず刹那は腹の内側を見せようとしない発言ばかり口にするが、これはそう思って良いということだろう。
緋奄は刹那の項を引き寄せると、そっとその唇を奪った。
いつになく穏やかな口付けはどこかぎこちなく、不器用な緋奄が出来る精一杯の優しさだった。

「んっ…」

抱き締められ、口付けが深くなる。

喉の奥まで犯されるのではないかと思われるそれが漸く終わると、緋奄は刹那の顔を覗き込んだ。

「俺からは、これでいいか?」

歯の浮くような台詞だ、と刹那は苦い表情を浮かべた。
確かに、チョコレートの味がしたから。

「…ふざけんな。明日作り直せ」

刹那は緩んだ腕の中から逃げ出すと、フィルター近くまで減った煙草の煙を吸い込んだ。
背中を向けてしまった刹那を見て、緋奄はしてやったりと意地の悪い笑顔を浮かべる。

「お前を美味しく料理してやろうか?」
「言ってろ色情魔」


















happy valentine!!








20090302.
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