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□バレンタイン企画!!vol.5
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「どうしました?」

まだ握り合ったままでいる沙稀の指を弄びながら訊けば、ぎゅっとその手を掴まれた。

「全部だめになったからな…」
「何がです?」

ぼそりと呟かれ、何のことかわからないカインは聞き返す。

「…お前のために作ってたんだけどな、うまくいかないし…爆発するし…」

沙稀は耳元で困ったようにそう言った。
囁かれる低音が心地いい。

「…最後は、わけわからなくなったし…」

怒りを抑えきれなかった自分に悔しくなったのか、沙稀は何とも言えない声でそう言った。
沙稀は何よりも自分が自我を失ってしまうことに対して強烈な劣等感を持っている。
普段感情を押さえつけ過ぎているのが原因なのだが、性格はそう簡単に変わるものではない。
だが、それを変えられない自分を嫌悪しているのだ。

「でも、俺のために頑張ってくれたんですよね…」
「…まぁな」

したこともない料理をして、それが邪魔されて…そしてぷつんとキレてしまったのだ。
それが自分のために頑張ってくれていたからだと思うだけで、カインの胸は一杯になる。

「たまには、俺から何かさせてくれてもいいだろ?いつも、お前からもらうばっかりだ」

そう言いながら、沙稀はカインの顔を自分の方へと向かせた。
そして、その瞳が沙稀を捉えた瞬間に唇を合わせる。
天井から、水滴が落ちた。
ゆっくりと味わうように舌を合わせて、カインの肩を抱きしめる沙稀。
カインは濡れた沙稀の髪をそっと撫でる。
柔らかく、穏やかな口付け。
脳髄が溶けそうなくらいの心地よさの中で、するりと伸ばされた沙稀の指先がカインの体を撫でた。

「…っ!」

ぴくり、とカインの体が強張る。
その反応に沙稀がくすりと笑った。

「さ、沙稀…っ」

突然の行動に、狼狽したカインは慌てて沙稀の名前を呼ぶが、ついで項を這った感覚にまたもや息を詰めてしまう。
沙稀はそのまま舌先でカインの耳郭をなぞると、そこに歯を立てた。
甘噛みの感覚がカインの背筋を震わせる。

「…嫌か?」

顔を上向きにさせられ、晒された首筋に唇を当てながらが沙稀はそう訊いた。
バスタブの中では腰のラインをなぞられている。
身を捩ろうにも、この狭さでは身動きさえ出来ない。
だが決して、嫌な訳ではなかった。

「いえ…」

消えそうな声で、カインはそう答える。
性欲の薄い沙稀に求められることはあまりない。
だからこそ、こんな時はどうしていいのかわからなくなるが、嬉しく思っているのは当然だ。

「…そうか」

背後で沙稀が微笑う気配がする。
首筋に、唇が当たった。
ゆっくりと舌先がそこを往復する。
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