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□バレンタイン企画!!vol.5
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「ベタベタになっちゃいましたね…」

部屋についてから、カインはチョコレート塗れになっている沙稀に言う。

「お風呂沸いてますから…」

その言葉に、沙稀は「あぁ」と生返事を返した。

汚れた服を脱いで浴室に座る沙稀の頭に優しくシャワーをかけて、手に取ったシャンプーで頭を洗う。

「…痛くないですか?」

わしわしと髪を洗いながらカインが言う。

「大丈夫だ」

目を瞑ったまま答える沙稀に、カインはにこりと笑った。
全くとんでもない事をさせれくれたものだ、とカインは思う。
沙稀はとんでもなく不器用な男なのだ。
任務やアサシンとしてのスキルは他の人間に比べると群を抜いているのだが、料理に関しては全くダメ。
以前にも、風邪を引いたカインの代わりにキッチンに立ったことがあったのだが、危うく包丁で指を切り落としそうになったり、火傷したりなど危なっかしい事見るに堪えなかった。
以来カインは沙稀がキッチンに立つことを禁止したのだ。
なのに、何も知らなかったとはいえやったことのない菓子作りをさせるなど、言語道断だ。
もし、沙稀に何かあったらどうしてくれるのか。

「面倒をかけたな…」

そんなカインの胸中を知ってか知らずか、沙稀はそう言いだした。
カインはくすりと笑う。

「いいえ、面倒じゃありませんよ」
「……」

髪を洗い終えて、沙稀とカインは二人で泡のたつバスタブに向かい合わせで入った。
無口な沙稀はあまり喋らない。
だから何の言葉もなくこうしているのはいつものことだった。
言葉がなくても、何ら不自由な事はない。
しかし、気まずい雰囲気になどなったことはないのに、今日はどこか何かが違う。
カインはそっと沙稀の様子を伺った。
沙稀は何か言いたそうな様子でいるが、その唇は頑なに閉ざされて、眉間には皺が寄っている。
カインは口を開いた。

「怪我、してませんか?」

そう言って、沙稀の手を取る。
沙稀は少しばかり驚いた顔をしたが、少しだけ表情を崩すと、

「してねぇよ…」

と答えた。
その台詞に、カインの表情も緩む。
沙稀は数少ない喋る機会にも固い口調でいるときが多いのだが、こうして軽い口調で話すときはリラックスしている証拠だということを知っているから。

「そうですか」

ほっとしたように答えれば、つかんでいた腕を引っ張られる。
カインは一瞬驚いたが、沙稀が促すように体を反転させると、後ろから抱き抱えられるように座り直した。
沙稀は無言でカインの肩に顎を乗せる。
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