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□バレンタイン企画!!vol.4
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周りを行き交う人々の視線が、そんな二人に突き刺さる。
俯いて必死に涙を拭う男と、それを慌てて宥めている、男。
バレンタインの人混みのど真ん中で、こんな二人を見て訝しまない人など居ないだろう。
琉稀更に増した苛立ちを大きな溜め息と共に吐き出すと、乱暴に譜迩の腕を掴んだ。

「こっちこい!!」

言って、半ば引きずるように譜迩を引っ張って走り出す。
一瞬抵抗したものの、譜迩はされるがままにその場から連れて行かれた。

「あんな場所で泣くんじゃねぇよッ」

自分の家についてから、苛立ちも露わに琉稀が言う。
譜迩は未だに俯いたままだ。
一体どんな顔をしているのかなど、琉稀にはわからない。
それが更に琉稀の苛立ちを増長させる。

「俺は…別にチョコレートとかいらねぇっつってんだよっ」

琉稀はがしがしと頭をかきながら言う。
先程の言葉は失言でもなんでもない。

ただ、琉稀が本当に言いたい事が譜迩に伝わっていないだけだ。
しかし、それを一体どんな風に言葉にしたらいいのか。
それが琉稀にはわからない。
だから腹が立つのだ。
こんな事ばかりして、挙げ句の果てに譜迩を泣かしてしまったのは自分だ。
泣かせたいわけではないのに…。

苛立ちは収まらないし、譜迩は俯いたまま。
琉稀は険しい表情をしながらも、言葉を探す。

「…誰からでも、貰えるだろうが、チョコレートなんて…」

そう、誰からでも貰おうと思えば貰えるものなど欲しくはない。
例え気持ちが無くても、くれる人など沢山いるのだ。

「そんなモンはいらないんだよ…」

だんだんと声が小さくなっていくのが自分でもわかった。

「…なんで泣くの?」

泣かせたいわけじゃないのに。
琉稀は顔を上げない譜迩を、じっと見詰める。

「…俺は、お前が居てくれるだけで、いいから…」

そう言って、琉稀はそっと指先を伸ばし、俯いたままの譜迩の髪を撫でた。
さらりと指の隙間を髪が通り抜けてゆく。
何度も何度も髪を掬って撫でれば、次第に大きくなる譜迩の嗚咽。
琉稀は思わずその震える肩を抱き寄せた。

「もう泣くなってば!!」

どうしたら泣き止んでくれるのか。
琉稀は無理やり譜迩の両頬に手を当てて顔を上げさせると、その唇に自分のそれを押し当てた。
涙で潤んだ瞳が大きく見開かれる。
触れてくる琉稀の少し乾いた唇に、また譜迩の瞳からは涙がこぼれだした。

この気持ちを、どうしたらいいのだろう。
琉稀は唇を離すと、涙で濡れた譜迩の頬を自分の袖でごしごしと拭った。

「…琉稀は、本当に俺でいいの…?」

ようやく涙のとまった譜迩は、泣きしゃっくりをしながら言う。

「俺は、男だし…子供も作れないし…なんもいい所ないし…」
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