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□バレンタイン企画!!vol.4
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バレンタインにチョコレートを渡す事なんて、全く意識になかったのだ。
女の子ならばみんながきっと今日を意識しているのだろうけど、譜迩は生憎男で、この日に何か渡す習慣など全く考えられなかった。
「…ご、ごめん…俺…なんも用意してないんだけど…」
差し出された箱を受け取っていいものか、迷う。
失念していた。
どうして思い付かなかったんだろう、と後悔だけが胸をチクチクと刺す。
「受け取ってくれたらありがたいんだけど…」
黙ったまま動かない譜迩に向かって琉稀が言った。
その言葉に、譜迩はおずおずと手を伸ばす。
「琉稀…お、俺…」
なんて言ったらいいのか全く思い付かずに、ただひたすら言葉を探す譜迩。
そんな譜迩を見て、琉稀は苦笑した。
「ただ溶かして固めただけだし…」
「そういう問題じゃないっ」
呟く琉稀の言葉を遮るように、声を上げる。
琉稀は一瞬驚いたような表情で譜迩を見たが、すぐにいつもの表情に戻ると、
「お前は女じゃないから、バレンタインにチョコくれる必要ないよ。それとも、俺にチョコくれようとしてるわけ?」
意味ありげな表情で、琉稀はそう言った。
「う…だ、だって…っ」
男同士、だと改めて言われると物凄く後ろめたい気分になる。
自分は体も心も男だという意識はあるし、女になりたいと思ったことは全くなかった。
しかし、こんな日は何故自分が女ではなかったのかと恨めしい気持ちになるのは何故だろうか。
もし自分が女だったら、今日ちゃんと琉稀にチョコレートを渡せた筈なのに。
「別に、チョコなら女の子からいくらでも貰えるから」
そんな譜迩の胸中などまるで理解していない様子で琉稀はさらりとそんな事をいう。
その言葉に、譜迩は愕然とした。
やはり琉稀は、女の子相手の方がよかったのか、と痛感させられた気分になる。
頭の奥でガラガラと大きな音がしているような気がして、不自然に視線がうろうろと宙をさ迷う。
「…譜迩?」
突然黙り込んで視線を落とした譜迩を、琉稀は怪訝な顔で覗き込んだ。
そしてぎょっとする。
今にも泣きそうな表情で、必死に涙がこぼれるのを耐えている譜迩。
一体どうしたのか。
「お、おい…」
思わず立ち上がり肩を掴もうとするが、どうしていいものかわからずにただただ譜迩の名前を呼ぶことしかできない。
そうして、琉稀は先程自分が口にした言葉を思い出してひどく後悔した。
「違うっ…そういう意味じゃないからっ」
慌てて取り繕うものの、既に遅かった。
俯いた譜迩の瞳からぽろりと零れ落ちる、涙。
「あーもう!!違うって言ってんだろ!!」
琉稀は自分に対して苛立ち、思わず怒鳴ってしまった。