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□バレンタイン企画!!vol.3
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「………いや、なんでもない」
「なんでもあるだろ!!」

それは紛れもなく琉稀が作る途中で垂らしたチョコレートの塊だった。

「ふざけんじゃねぇよ!!コレ、俺が落としたやつじゃねぇか!!」
「…知らん」
「…知らん。じゃねぇ!!笑ってんじゃねぇか!!」

沙稀は下を向いていて表情は見えないが、肩が揺れているので笑っている事など一目瞭然だ。
へんな時にばかり冗談を言うのはやめて欲しい。普段まったくそんなことはしないというのに。

「まぁ、琉稀…おめでとう…」

ひとしきり笑った後、沙稀はふわりと微笑んでそう言った。

「あ、あぁ…うん…」

その稀にみる笑顔が誰かのそれに重なって見えて、琉稀は少しばかり照れたように下を向く。
それでなくても兄に改めてそう言われたら、くすぐったいような気分になるというのに。
琉稀は何となくそわそわした様な気持ちをどうにかしようと、ただ自分がこぼしただけのチョコレートをパクリと口に入れた。

「いいねぇ…兄弟仲がいいのは…」

その様子を見ていた朔夜はやれやれと言ったような表情で笑う。

「でもまぁ、譜迩くんにはちゃんと言った方がいいよ?機会がないと言うチャンスを失うしね…」

「…そっすね。後で会うし…そん時でも」
「琉稀」

朔夜と話していると、背後から声をかけられた。
振り返ると、そこにはセリオスの姿。
琉稀は一瞬ヒヤリとする。
セリオスは元々慈善団体ギルド「白銀の鐘」に所属していて、譜迩と同じエルランド寺院に住んでいるのだ。
そして彼らは兄弟同然に育っているわけで、譜迩と琉稀の関係ではいろいろといざこざになったりもしている。
朔夜との会話は当然、「譜迩は僕の恋人です」みたいな感じで話を進めていた。
同じ空間に居たのなら、先程からの会話は全て筒抜けだった筈。
嫌な汗が琉稀の背中を伝う。

「私は、お前がだらしない上に身勝手で最低な男だという事は知っている。おまけに馬鹿だ。譜迩の神経を疑いたくなる時もある」
「……」

セリオスは何を考えているのか、突然声をかけてきたと思ったらそんな事を言い出した。

「譜迩がお前を選んだ理由がわかりかねる」

確かに、言われても仕方ないことだった。
しかし琉稀にはこの性格を直そうなどという気は全くない。
だが、こうもズバズバと言われたらさすがに心がチクチクする。
セリオスはふぅ、と溜め息をついた。

「…譜迩を泣かせるような真似だけはするな。お前がいくら馬鹿だろうとも、それ位はわかってもらわないと困る」

そこまで言うと、セリオスはばさりとマントを翻してその場から立ち去っていく。

「…認めてくれてんの、かな?」

そんなセリオスの背中を見送った朔夜が苦笑いを浮かべながらそう言った。
琉稀は乾いた笑いを浮かべることしか出来ない。
その時だった。

ミシミシミシ……
とドコからか何かが軋むような音が響いてくる。
ドカン!!

物凄い爆発音と共に、強烈な爆風が部屋の中を吹き抜け、ボウルがひっくり返り、作りかけのチョコレートだの材料だのが次々と飛んでいった。

「な、ななな…」

とっさにテーブルの下に隠れた琉稀は恐る恐る顔をあげると、向かい側にはどこからか飛んできたボウルを頭にかぶった沙稀が見える。
その向こうにはもうもうと煙をあげるオーブンがあった。

「あっちゃ…緋奄のだねこりゃ…」

同じようにテーブルの下に隠れていた朔夜が、琉稀の横でそう言う。

「沙稀ちゃーん…大丈夫?」

朔夜はボウルを被ったまま微動だにしない沙稀に向かってそう言うが、沙稀はぴくりともしなかった。

しかし次第に、嫌な気配が立ち上ってくる。
暫くして、沙稀がゆっくりと頭からボウルを外した。
そんな沙稀の瞳を見て、琉稀と朔夜は思わずぎょっとしてしまう。

「あ…兄貴、取り敢えず落ち着こうぜ?まだ何とかなるし…」
「そ、そうそう…なんなら俺、なんでも手伝うし…」

慌てて何かを取り繕うようにそう言ったが、沙稀の耳にはまるで届いていないようだ。
沙稀はニヤリ、と恐ろしい笑みを浮かべてテーブルに突き刺さっていた包丁を掴んだ。
琉稀と朔夜の表情は引きつったまま固まってしまう。
そんな二人を尻目に、沙稀はゆっくりとした動作で部屋の隅にいる人物を振り返った。

「なに、これ。」

緋奄はこの爆発で目が覚めたのか、辺りの惨状を面倒くさそうな表情で見ている。

━まずい。コレは明らかにまずい。

琉稀と朔夜は思った。

沙稀が緋奄に向き直り、一歩踏み出す。

「あああ兄貴ッ!!ちょっと待って!!」

琉稀がそう言いながら足を掴めば、

「沙稀ちゃん、それはまずいからっ!!」

朔夜がそう言って沙稀を羽交い締めにする。

「うるさい…殺す…」

沙稀は低い声でぼそりと呟いた。

「あ?なんだって…?」

沙稀のその言葉に、緋奄の目つきが変わる。
セリオスも居なくなった今、この状態は非常に危険だった。
この場にいるのは、手の着けられない獣と、狂戦士だ。
最早チョコレート作りなどという可愛らしいものは、先程の爆風と共に吹き飛んでしまったのだろうか。

「お、お願いだからヤメテ…orz」

琉稀の願いは果たして天に届くのか。

















どうなる!?













20090316.>>>>>
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