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□バレンタイン企画!!
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「なんだよ、文句ありそうな顔してんじゃねぇか?」
黙っていた沙稀の方に緋奄の視線が向くのを、無意識に顔をそらした沙稀だったが緋奄は見逃してはくれなかったようだ。
「なんでもありません」
ぼそり、と呟く沙稀。
「何でもねぇって感じじゃねぇな?」
何にでもいちゃもんつけるのはいい加減にやめてくれ、と沙稀は思った。
言いたい事は山ほどあるのだが、それを言えば後悔するのは自分の方だとわかっている。
琉稀は矛先が兄に向かったのを内心ほっとしていた。
沙稀なら、だんまりを決め込むことも可能だとわかっているから。
忍耐力のない自分はどんな言葉を口にするかわからないし、それが緋奄にどんな反応をさせるのかわからない。
胸中でごめんと呟きながら沙稀を見れば、沙稀は恨みがましい視線を返してくる。
「ホントしゃべんねーな、お前…なにされても黙ってるよなァ?」
「緋奄、沙稀ちゃんいじめないでくれる?」
待たされてつまらないのか、沙稀に絡む緋奄に朔夜は明るい口調でそう言い、肩を叩いた。
「あー…別に虐めてねーよ?たまにはおもしれー話の一つでもしてくれねぇかなって思ってさァ」
沙稀に一体どんな面白い話のストックがあるんだ、と全員が思う。
絶対わざとやっているに違いない。
「下らない」
そんなやり取りをピシャリと切り捨てたのはセリオスだった。
ピシリ、と空気に亀裂が入る。
緋奄とセリオスが顔を合わせるなどなかなかない話だが、この二人が談笑しているところなど想像もつかない。
ともすれば血を見ることになるのではないだろうか。
「へぇ、崇高なセリオスさんには野蛮な俺達の話はお気に召さないってか?」
野蛮なのはお前だけだろう、と突っ込みたくなるのは気のせいか。
「ほぅ、わかっているなら少しは考えたらどうだ」
ギシリと空気の重みが増す。
「相変わらずお高く止まってんだなァ…」
「貴様が低俗なだけだろう」
この部屋はいつからこんなに酸素が薄くなったのか、と思うくらい息苦しくなる。
朔夜がまぁまぁ、と仲裁に入るものの、二人の間には見えない何かが飛び交っているようだ。
沙稀と琉稀はただただ黙っているだけ。
沙稀は同じ転生職であっても、なかなかこの三人の中には入っていけないものがある。
なんと言っても、緋奄に対する恐怖心はなかなかぬぐい去れないのだ。
「おー、何盛り上がってんだお前ら」
この息苦しく不穏な空気を打ち破ったのは、扉の開く音と澄んだ男の声。
紫色の髪と同色の瞳を持つ、「紺碧の翼」ギルドマスターの刹那だ。
「随分ヒートアップしてんなぁ、結構結構ww」
刹那は二人の様子などまるで気にならないのか、明るい口調でそう言う。