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□狩の準備は念入りに
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狩に行って、力及ばず倒れる事など誰にでもある話だ。琉稀も譜迩も幾度と無くそれを経験しているが、下手をすれば二度と起きあがれなくなるかも知れないのだ。

(守りきれる自信とか、ねぇし…)

例え、装備が整ったからといって譜迩にはタゲを取るような事をさせるつもりなどさらさらない。
だが、もしもの時は、せめてテレポートを唱える隙だけでも作れれば―…。
けれどそれを素直に言う気にはなれないのが琉稀の性格だから仕方がない。

「…ごめん。怒鳴りすぎた」

琉稀はバツ悪そうにがりがり頭を掻いてそう言う。
譜迩はそれに対して小さく頷き、怖ず怖ずと顔を上げて琉稀を見た。

「……ぶさいく」
「…ッな!!」

今にも泣き出しそうな顔をしている譜迩に、琉稀はついつい悪態を付いてしまった。
なんとなく、いらいらするのだ。気まずい雰囲気は居心地が悪くてならない。

だからついつい、琉稀は譜迩に当たってしまう。

「なんなんだよ!! ゴミとか不細工とか!!」
「…ホントの事だし」

しゃあしゃあと答える琉稀に、譜迩は怒りと虚しさを耐えきれず本気で泣きそうになった。

「っ…なんなんだよ…」

下を向いて、涙を堪える。
譜迩も、一生懸命だった。琉稀は任務だのなんだのと狩に行くこともあり、帰ってくればレベルが上がっていたりもする。
しかし、譜迩も臨時やリク達と素材集めに行ったりして経験値を稼ごうとするが、やはり琉稀にはなかなか追いつかない。追い付くどころか、差が広がっていることの方が多いのだ。
琉稀に置いて行かれないように頑張っているのに―…。

「……んだよッ…」

譜迩の中で理不尽な思いがふつふつと沸き上がってくる。

「なんなんだよ…ッどうせ自分がマイナス食らいたくないだけだろ!? だから俺に倒れるなって言ってるんだろ!?」


譜迩は思わず、叫んでしまった。

「俺が倒れたら自分もやられるから…だから装備固めろって言うんだろ!?」

水分を増した瞳で、それでも負けじと拳を握り締めて、ありったけの声量を振り絞って叫ぶ。
激昂し過ぎて、逆に涙が零れてしまうのもそのままに、譜迩は琉稀を睨み付けた。

「…何言ってんの?」

琉稀は、譜迩を見つめ返す瞳を細めてそう返す。

「そんなにマイナスが嫌なら他の人と行けば!? VIT型ならそう簡単に倒れないし、その方がいいんじゃない!? 別に一緒に行ってくれなくたってい…」
「そんな事言ってねぇよ!!」

激昂してまくし立てる譜迩の声を遮るようにして、琉稀が怒鳴った。
低い怒声に、思わず身が竦む。
しかし琉稀は声とは裏腹に、何故か苦しそうな表情をして譜迩を見ていた。

空気が張り詰めてピリピリする。
頭の中が真っ白になってしまい、身動き一つ取れない。

詰まっている息を吐き出すタイミングすら図れなかった。

「そんな事…言ってないだろうが…ッ」

血を吐くように、絞り出した声で琉稀は言う。

「だったら…装備の話なんかする前にVITと狩行ってるよ…」

苦渋に満ちた表情で吐き出す琉稀。
譜迩はただ、大きな瞳を更に大きくして琉稀を見つめることしかできない。
琉稀は、大きな手のひらで譜迩の肩を引き寄せると、その華奢な体を腕の中へと巻き込んだ。
吃驚して止まっていた涙が、再び溢れそうになる。

「分かれよ…お前を死なせたくないんだよ」

耳元でそう聞こえる、掠れた吐息混じりの声。
ぎゅ、と痛いくらいに抱き締められて、譜迩の涙腺は遂に決壊してしまう。

「じゃあなんでごみとかぶさいくとかいうんだよぉ…」

涙声でそう言えば、何も答えない琉稀の腕がただただ強くなるばかり。





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