SS

□この日だけは
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なんかそれ結構よくないか?

「欲しいならやるが?」
「くれ」

何の気なしにそういったアルケミストに即答で俺はそれ一式をもらった。

「で〜…それを来てどこにいこうっていうんだ?」

そのやり取りの一部始終を見ていたブラックスミスが引き攣った笑顔でそう訪ねてくる。

「そりゃお前…、…」

おいおい、何だこの空気は?
ブラックスミスの背後に地獄の業火にも似た炎が見えるのは俺だけだろうか。
俺は続けようとした台詞を思わず飲み込んだ。
殺気だよなこれは。明らかに。

「い、今から俺任務の手伝いしにいかねぇといけないんだぜ? 何処に行こうとか、そういうの、考えてないカラ…あぁ、アインブロックだよアインブロック行くんだよ…」

なにしどろもどろになってんだ俺は。
こんな製造ブラックスミス如き大した事ねぇじゃん。
だけどなんだろうな、この凄味は一体何処から来るんだろう…。

「へぇ…それで薬品買いあさってたワケか」
「人を薬中みたいないい方しないでくれるか?」
「いやいや、アサシンなんてどんなドーピングしてるかわかんネェよ?」
「そういうBSだってバーサクのみまくってンじゃないの? そっちのが危ないんですけど?」

「……」
「……」

くだらない。
くだらなすぎやしないか、この会話。
こんな事してる場合じゃないんじゃないか、俺。

「ちょっと、見せて」

俺はただ黙って傍観していたアルケミストの左腕を引っつかむとその腕に巻かれた時計に眼をやった。
4時48分。

「うわー、大分時間くってるじゃねぇか!」

兄貴からwisが来たのは確か3時過ぎだったような気がする。
催促のwisが来ないのは忙しいからなのか、それとも…。
後者はない、絶対にない。
兄貴はそう簡単にやられる奴じゃないし、それにカインも一緒にいるはずだ。

「邪魔して悪かったな! まぁ今夜は楽しめよ。じゃあな!」

俺はそう言い残してその場を走り去った。
ブラックスミスが何か叫んでた様な気もするが、この喧騒の中じゃそれも何を言ってるのかまで聞き取ることは不可能だったし、何よりどうでもよかった。

プロンテラの南門を潜って臨時広場へ走って行く。
臨時パーティ募集の冒険者が集う場所だ。大抵その辺りには2,3人のポタ屋やってるプリーストがいるはずなんだが…。

「え〜っと…」

「クリスマス、ソロ軍団狩り! クリスマスなんてクソ食らえ! 集え若人!」

むさ苦しい男ばかりが集まった変な集団がでかい声で叫んでいる中、俺はアインブロックのポタ表示を出しているプリーストの姿を見つけた。
桃色の長い髪をしたハイプr…。

「あら、琉稀じゃない」

背後からそれを見つけた俺は、肩を叩こうとして伸ばした腕をそのままに硬直する。
同時に振り返った女ハイプリーストは俺の顔を見てそう言った。

「プ、プリ子…」

どうして今日はこうも知り合いに会うんだろうか?

「プリ子じゃないわよ、エリザよ」
「何してんだお前、一人か? サビシイやt…」

ゴス!
酷い音が頭蓋に響いた。
コイツ、マジで危険すぎる。
そんな分厚い本で殴られたらVIT1の俺なんかもう紙くずなんですけど…っていうか!今当たったのはアレだぞ!油断してたからだぞ!
アサシンの癖にとかいうんじゃねぇ!

「っいってぇ〜…何すんだよ凶暴な奴だな」
「あらごめんなさいね? ちょっと手が滑っちゃって…」
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