連載
□月光6
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『オジサン!!これ買って!!』
大切にしまって置いたドロップアイテムを差し出すと、肉屋のオジサンはそれに見合ったゼニーを差し出してきた。
手のひらに受け取ったゼニーと、ポケットにしまってあったゼニーを取り出して何度も確かめる。
それを握り締めて、今度は花売りのところへ走った。
『これください!!』
琉稀は握り締めたゼニーと引き換えに、真っ赤なバラの花を一輪手に入れる。
このバラの花は、絶対に枯れることのない花。
よく父親が母親に手渡していることを思い出して、琉稀はこの花をふじに渡そうと思ったのだ。
もう、会えなくなってしまうかもしれないから。
―お父さん、なんでこの花をあげるの?
―何時までも変わらずに愛してる、という意味があるんですよこの花には。琉稀も大きくなったら大好きな人に渡してあげてくださいね。
大好きな人に。
自分は明日ここから居なくなるけれど、ふじの事が好きだったから。
だから、別れる時にはこの花を渡そうと。
次の日。
刹那が琉稀を迎えにやってきた。
琉稀はみんなが見送りに出てきている中で赤い髪をしたふじを探す。
見つけたふじは、悲しそうな表情で琉稀を見ていた。
『るきくん、行っちゃうの?』
そう言うふじに向かって、琉稀は無言でしおれないバラを差し出す。
ふじは一瞬不思議そうな顔をして琉稀を見たが、にこりと笑ってそれを受け取った。
『くれるの?』
そう言ったふじに、少しだけ頬を染めた琉稀はそのまま背中を向けて刹那の側まで走って行く。
『ありがとう!!』
ふじはその背中に向かって大きな声でそう言った。
『やるじゃねぇかww』
刹那は無言で袖を引っ張る琉稀に向かってそう言うと、琉稀を連れてその場を後にした。
そして、琉稀も譜迩もあの時の事を忘れるくらいの長い時間を過ごしてきたのだった。
「…止まれ」
教会の前までやってきた所でそう声をかけられ、琉稀はぴたりと歩みを止めた。
よく知っている声に、覚悟していた事とはいえ溜め息が出る。
振り返れば、いつの間にそこに居たのか金色の瞳をしたハイウィザードの姿。
「随分と手荒な真似を…」
「…うるせぇ。コイツが俺の周りをうろちょろしやがるから…」
チッと舌打ちをしながら言えば、ハイウィザード、セリオス・グラストヘイムはその金色の瞳をすっと細めた。
「可愛い弟に手出されたら誰でも憤るものだと思うが?しかもその理由がその程度の事で…」
言われた言葉は尤もだ。
しかし琉稀にも引けない訳がある。
「あんたも知ってるだろ?俺がプリースト大嫌いなの」
嫌いだと言ったのに。