連載

□月光6
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そんなある日、紫色の髪をした綺麗な男が教会に現れ、セラフィスが琉稀に向かってこう言った。

『琉稀、この人がお前を連れて行きたいというんだが、どうだ?』

何故かセラフィスは浮かない表情をしている。無理やり作った笑顔だった。

『沙稀も居るぞ?兄弟だろう?』

紫色の髪をした男が言う。
琉稀は思わず紫色の髪をした男に抱きついた。

『お兄ちゃんがいるの!?』

もう自分には何も残されていないと思っていたのに、まさか此処で兄の名前が聞けるなど思ってもいなかったのだ。
セラフィスは今まで見たこともない様な顔で笑う琉稀を見て、悲しそうな笑顔を浮かべている。

『あぁ。一緒に来るか?』

膝を屈めて琉稀の顔を覗き込みながら、紫色の髪をした男、暁刹那はそう訊いた。

『一緒に行く!!』

琉稀が大きく頷いてそう答えると、刹那はその頭をくしゃくしゃと撫でる。
セラフィスは大きな溜め息をついた。

『決まりだ。セラフィス、明日改めて迎えにくるから…琉稀、ちゃんと支度しておけよ』

刹那はそう言って琉稀の頭をぽんっと叩いてその場を立ち去って行く。
セラフィスはその背中を見送ってから琉稀の肩を掴むと顔を覗き込むようにしてこう言った。

『…辛かったら、戻ってきなさい』

行ってはならないとは、言えなかった。
唯一の肉親が居るところへ行ってはならないとどうして言えるだろうか。
刹那がまとめているギルドが何をしているか知らなかったわけではない。
『紺碧の翼』と言えば、知る人ぞ知る裏の仕事を請け負うギルドだった。
アサシンギルドとも交流があり、闇の組織だという噂もあって決していい印象のあるギルドではなかったが、ただの慈善団体を名目にしているセラフィスのギルドがそれに太刀打ち出来るとは到底考えられない。
琉稀を引き渡すのに断る術はなかったが、琉稀の父親である先代のギルドマスター、架月の事を考えれば何としても渡さないようにする覚悟はあった。
けれど、あんなに嬉しそうに笑う琉稀を目の当たりにして、それを引き留めることなどセラフィスには出来なかった。
悪いようにはしない、という刹那の言葉を信じる以外にはなかった。

『うん。ありがとう…セラフィスさん』

そんなセラフィスの心境などまるで知らない琉稀は、嬉しそうにそう言ってくるりとセラフィスに背を向けて外へと走り出した。


琉稀は部屋に戻ると机やタンスの中身を引っくり返してありったけのゼニーをかき集めた。
袋に詰めてあったやわらかな毛やにじいろのニンジンを引っ張り出して、プロンテラの街に飛び出す。
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