連載
□月光6
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自分の頭くらいありそうなボールをもった赤い髪の孤児が声をかけてくる。
琉稀はいつものように無反応だった。
すると赤い髪の孤児は何も言わずに琉稀のとなりに腰掛けると、
『何を見てるの?』
と訊いてくる。
何を見てるの、か。
琉稀は視界に映るものをまるで初めて見たかのように凝視した。
それはただの草、のようだった。
『おもしろいの?』
しばらくそんなことを考えていると、またそう訊かれた。
それは、おもしろくもなんともない。
何処にでもあるような風景で、変わったことなど何もない。
つまらない風景だった。
『ふじ!!こっちこいよ!!』
遠くでそういう声がする。
『うん!!』
隣から返事がした。
この子は、ふじ、と言うらしい。
ふじは置いてあったボールを手に持つと、ぱたぱたと声がした方へと走ってゆく。
琉稀はその姿を目で追った。
ここに来て、初めて色のついた何かを見たような気がする。
今まで、まるでモノトーンの世界を見ているようだったのに、ふじだけが、色鮮やかだった。
何故だろう…。
そして今まで不思議と何をする気も起きなかった筈なのに、琉稀は立ち上がると教会の中へと入っていく。
祭壇の近くでミサの準備をしているセラフィスの姿を見つけると、忙しそうに動く彼の服を引っ張った。
『わっ!な、なんだッ』
驚いたように振り返るその顔を見て、琉稀は噤んでいた口を開く。
『おなかすいた。』
その台詞を聞いたセラフィスは、一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに盛大な笑い声を上げると琉稀ね頭をわしわしと撫でて言った。
『俺が飛びっきりうまいもの食わせてやるからな!!』
それは、少しずつ凍り付いた扉が開いてゆく瞬間だった。
だが琉稀は他の孤児たちには決して馴染むことはなかった。
『るきくん、みんなであそぼうよ』
ふじはみんなと遊びたがったが、琉稀はただ首を振るだけ。
『そっちに行きたかったら行けば?』
琉稀はそう言うと積んだばかりの花を手に駆け出した。
本当は、ずっと一緒にいたいのだけど。
でもふじが悲しい顔をするから、琉稀は教会の裏手にある墓地に向かうと真新しい墓石に向かって花を投げつける。
『お前なんか大嫌いだ!!』
墓石には、琉稀の大好きな父と母の名前がある。
大好きだったのに…。
自分にはもう何もないということは痛いくらいにわかった。
みんな居なくなってしまうんだ。
そんなことはもうわかったから、涙なんてもう流れない。
琉稀は墓石に刻まれた名前を何時までも睨み付けていた。
嫌いになれば、忘れられるんだと。
半年が過ぎても琉稀の様子はそれ程変わらない。