連載

□月光6
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さらり、と赤い髪を撫でると、それがシーツの上に散らばる音がした。









琉稀は足音を起てずに夜道を歩く。
爪のように細い月が暗闇に浮いていた。
両の腕には、赤い髪をしたプリーストが抱えられている。プリーストはぐったりとして、意識を失っているようだ。
突発的な行動をとったせいでこの後の身の振りなど考えてもいなかった琉稀は、ただこのプリーストを送り届けなければならないということしか頭になかった。
幸いプリーストが住んでいる場所は知っているが、果たして正面から向かって何事もなく終われるだろうか。
その保証はどこにもない。
痣の一つや二つ、覚悟しなければならないだろう。
何も律儀に送ってやらなくてもいいじゃないか、と、頭の片隅で思う。
琉稀がしたことは、このプリーストが自分で蒔いた種のせいだと言ったはずだ。

ならばこんな風にしてやる必要もないというのは当たり前の事だ。その辺に捨て置いてもいいとも思える。
しかし、それができないのは…
















両親を失った琉稀はエルランド孤児院で暮らすことになったのだが、精神的なショックはそう簡単にぬぐい去れるものではなかった。

『どうしたんだい、琉稀くん』

孤児院には琉稀と同じ様な孤児たちが何人か居たが、琉稀は院長であるセラフィスをはじめとした孤児たちの誰にも心を開かない。
こうして食事をとるために食堂に集まった時でさえ、箸をとろうともしないのだ。
セラフィスは黙って椅子に座る琉稀にそう言うが、

『…いらない』

琉稀はそう答えるだけ。

『だめだよ、食べないと元気になれないじゃないか』

セラフィスはそう言って琉稀の隣に座り、食事を促そうとする。

『いらないッ!!』

しかし、琉稀は叫ぶように声を上げると目の前に並べられた食器をひっくり返して走り去ってしまった。

『…琉稀っ!!』

セラフィスは食堂から逃げるように出て行く琉稀の名前を呼ぶが、琉稀の姿はもうそこにはなかった。
食堂を飛び出した琉稀は教会の中庭に膝を抱えて座ると、何を考えるわけでもなくただじっと揺れる草花を見詰めている。
そうやって一日中、日が暮れるまでそこにいるのだ。
中庭で他の孤児たちが笑いながら遊んでいる声も、琉稀の耳には届かない。
誰が呼んでも返事などはしなかった。
まるで、琉稀だけの時間があの時から止まっているかのように動かない。
新参者の上に、そんな状態の琉稀に話しかけようとする孤児は誰もいないように思われた。
しかし、ただ一人だけ、琉稀に話しかけてくる孤児がいた。

『るきくん、いっしょにあそぼ?』
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