連載

□記憶の傷跡A
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いままで興味無さそうに二人のやり取りを見ていた赤髪の男は咄嗟に沙稀の胸倉を掴んだ。
その拍子に剣が沙稀の手からすっぽ抜ける。
「っ、こ・・・殺して、やる・・・ッ」
沙稀は絶え絶えになる呼吸で必死になってそう言った。
「おま、が・・・やった、ろ・・・?」

オマエ ガ ヤッタンダロ

先ほどの会話。
『しけた任務』
『暗殺集団』
それらの単語だけが必用に耳にこびりついてしまった沙稀にとって、この悪夢のような惨事はこの男達のせいではないのか、という疑念が浮んでいた。
みれば、二人の姿は黒装束を纏った『アサシンクロス』。
クローキングというスキルで気配を悟られずに行動することなど、彼らにとっては朝飯前だろう。
隠れたまま『古木の枝』を大量におることも―・・・。


「ちょっ・・・俺たちが何したって!?」
「刹那!!いい加減にしろ。こいつブッコロス!!」
「緋奄!!濡れ衣を着せられたままじゃ殺してもすっきりしないだろ!!」
沙稀は途切れそうになる意識をなんとか保ちつつ、手探りで剣を探した。
刹那と呼ばれた紫色の髪をした男は、腕の中でもがく沙稀に気付くとその手を握り締める。
「大丈夫だ。ここら辺の奴らは俺たちが片付けたよ」
沙稀は刹那の瞳を見つめ返す。
「父・・・さん、・・・かぁ、さん・・・は?」
沙稀の、薄紫色の眼が僅かに揺らめいた。
「・・・」
刹那は息を呑み込み、彼の蒼い瞳は言葉を探すように宙を彷徨う。
その様子で、沙稀はこの辺りに生存者がいないであろう事を悟った。奥歯をかみ締め、刹那の腕から抜け出そうともがく。
「オィ、クソガキ。お前、名前は?」
赤い髪の男、緋奄はぶっきら棒にそういうとポケットの中から無造作に何かを取り出した。
その様子を見ていた刹那の瞳が見開かれる。
沙稀と、緋奄の取り出したものを交互に見つめ、まさか、と呟く。
「お前の名前は、『サキ』なのか?」





『お願いします』

『僕と同じ金髪をした、剣士です』

『絶対に、生きていますから』

『渡してください』





ソレは、緋奄の大きな手から、沙稀の手へと手渡される。
コボルトカードの刺さった、ロザリー。
「・・・」
沙稀は、信じられないものを見るかのような眼でソレを見つめた。
いつも、父親が肌身離さず付けていた愛用の装備。
「架月っていうハイプリーストだ」
緋奄は淡々とした口調で言う。
刹那は苦しそうな表情で眼をそらしていた。
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