連載

□記憶の傷跡@
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「お母さん!!」
物陰から、母親が地面に落ちてゆくのを見ていた。
沙稀は立ち上がろうとする琉稀の肩を押さえつけてその場へ座らせると、腰に挿した剣を引き抜いて琉稀の前に立つ。
剣士になったのは、強かった母親を見らなって。母親は聖騎士なら、自分は騎士になろうと。
まだ転職したばかりだけれど、ここで弟の一人も守れないようなら死んだ方がましだとも思った。沙稀は震える手で剣を握り直した。この剣は、母親から貰ったものだ。
ぶわっと、再び周りにモンスターが湧き出す。
「っ!!」
沙稀は我武者羅に剣を振り回した。せめて弟だけでも助かればと。
しかし、いつの間にか後ろに居たはずの弟の姿は溢れかえるモンスターの波に飲まれ、自分が何処にいるのかも分からなくなってしまった。




「お兄ちゃん!!」
モンスターの攻撃を食らわないようにと、小さくなっていた琉稀がふと顔を上げると、前に立っていたはずの兄の姿はなくなっていた。
揺れる金髪だけを見て呼んだのは、兄ではなく―・・・。
「お、お父さん!!」
「琉稀・・・大丈夫ですか?」
父親はゆっくりと振り返り、そういう。いつもと変わらない、優しい声で。
だがその笑顔は、いつもの優しい笑顔ではなく苦しそうな笑顔で、頭を怪我しているのか顔半分は真っ赤に染まっていた。
肩で息をする父親の苦しそうな笑顔。
「沙稀は・・・?」
父親に問いに、琉稀は答えることが出来なかった。しゃくり上げて、零れ出す涙を拭うのに必死だ。
「・・・」
架月は苦い表情をして奥歯をかみ締める。ちらりと背後を見れば、水色の姿が無邪気に跳ねていた。あんなふざけた形をしているのに・・・。
無意識にわき腹の傷へ手をやると、どろりとした液体が絡み付いてきた。
「琉稀・・・」
架月は愛おしそうに我が子の頭を撫でる。
「お兄ちゃんは絶対に生きています。あとで会えますから」
いつもと同じ調子で架月はそういい、琉稀を強く抱きしめた。
「ワープポータル!!」
左手で蒼いジェムストーンを握りながら叫ぶ。
視界がぐにゃりと歪んだ。
「・・・・・・・・・っ?」
琉稀はきつく眼を閉じてから、奇妙な浮遊感が去るのを待って目を開ける。
「っ架月さん!?」
誰かが、自分を抱きしめる人物の名前を呼んだ。
派手な金色の、長い髪をしたプリースト。
「どうしたんですかその怪我!?」
「セラフィス・・・この子を、頼みました・・・」
「え?架月さん!?」
「僕は行かなくては・・・沙稀が、まだ・・・」
「お父さんッ!!」
琉稀を、セラフィスと呼んだプリーストに預け、立ち上がる架月に、驚いた声を上げるセラフィス。
「何があったんです?テロ!?」
同じプロンテラにいるものの、ここは城壁に守られた教会の中だ。モンスターはそうそう侵入できないだろう。現に街中で起こった出来事に、彼は気付いていなかった。
「いいですか、セラフィス。貴方は此処で待っていてください。必ず戻ってきます」
「ちょっ・・・架月さん!?その怪我で行くなんて無茶な・・・」
「僕を誰だと思ってるんですか?」
にこりと笑い、架月はもう一度念を押すように「琉稀を頼みましたよ」と言ってテレポートした。
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