連載

□記憶の傷跡@
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『記憶の傷跡』+1+

極稀に、街中であるのにも拘らず突如そこに大量のモンスターが発生することがある。
古木の枝というアイテムがあるのをご存知だろうか。その枝を折ると中に封じられているモンスターが現れるという代物だ。
それを用い、姿を隠した何者かが街中で大量に枝を折る。すると、封じられていたモンスターたちが暴れだし、近くで露店を開くもの、座って雑談をするもの、仮眠を取っているものを見境なしに襲いだすのだ。
さして強くもないモンスターも居れば、BOSSクラスのモンスターが封じられていることも珍しくない。


琉稀はその日、兄である沙稀と共に両親に言われて街中へと買い物をしに来ていた。
前を歩く沙稀の髪は父親譲りの淡い金髪。さらりと流れる綺麗な髪。瞳は母親譲りの淡い紫色をしている。
対する琉稀の髪は母親譲りの青く光を反射する銀髪。少し癖があるも、柔らかそうな髪。瞳は父親譲りの澄んだ海のような深い青をしている。
二人の容姿は一目を引くものであったが、こうして二人で歩いていると尚更それに拍車がかかるようだった。店に行けばおばさんがオマケをしてくれるし、町を歩けばおねぇさんから飴をもらったり、SSを撮って欲しいといわれることも少なくない。
琉稀は先ほど貰った飴を食べてご機嫌だった。
買い物も済んで後は帰り道を行くだけだという頃。ふと、前を行く沙稀が足を止める。
「どうしたの?」
琉稀は不意に立ち止まった兄に訝しげな視線を送ってそう言った。
沙稀は眉間に皺を寄せて辺りを見渡す。
「・・・?」
琉稀は段々落ち着かない気分になってきた。沙稀が喋らないのはいつもの事であるが、なんだかこの町の雰囲気はいつものそれではないような気がする。
ふっと、背中の方を何かが通り抜ける感じがした。
振り向いてみても誰も居ない。
琉稀は無意識に沙稀の服の袖を握った。

「うわぁぁああああああッ!!!!」
突如、背後で悲鳴が上がる。
「!?」
沙稀が慌てて振り向けば、そこには先ほどまで露店を開いていたアルケミストが必死で敵の攻撃を受け止めている姿があった。
「っ!!早く逃げなさい!!」
アルケミストは驚いて硬直したままで居る沙稀と琉稀を見つけると、叫ぶようにそういった。
彼女の腕ではそれを受け止めていることが精一杯なのだろう。しかしあまりの出来事に琉稀は身体どころか思考回路すらも停止してしまっている。
はっと我に返った沙稀がその腕を強く引いた。
「逃げるよ」
普段あまり聞かない沙稀の声はこんな時ですらとても冷静だ。琉稀はそれを耳にしてようやく廻り始めた頭で沙稀に腕を引かれたまま走り出した。
息が苦しくなるのも気に留めず、沙稀は琉稀の手をしっかりと握り締めたまま精錬屋の角を曲がる。
そこで沙稀は急に足を止めてしまった。
「どうした・・・の・・・ッ!?」
再び急に足を止めた沙稀の背中に思いっきり突っ込んでしまった琉稀は痛む鼻をさすって先を見上げる。その方の向こうに移ったのは、真っ赤な液体にまみれた大きな鉄の塊のようなもの。
見たこともない大きなソレは禍々しい空気を撒き散らし、昼間の町に似つかわしくない様相でそこにいた。
沙稀はソレが何であるのか、嘗て一度だけ父親のSS集の中で見たことがあったような気がした。
―こんな時は、一体どうしたらいいんだろう。
アイツの足元を駆け抜けたらいいのだろうか。いや、もしも何か遭ったらどうすればいいのだろう。自分一人なら何とでもなったかもしれないが・・・。
沙稀は背後に居る琉稀をちらりと見た。
そして強く、その手を握る。
「下がっていなさい!!」
不意に、聞いたことのある凛とした声がその場に響いた。そういって二人の横を大きな鳥が颯爽と横切っていく。
大きな鳥・・・剣士系の職業が乗りこなすペコペコというモンスターだ。
「お・・・母さん!?」
琉稀は沙稀の背後から姿を現して横を通りすぎたその姿に声を上げる。
飛び出した琉稀を沙稀が静止する前に、仮面を着けた大きな影が血まみれの包丁を琉稀に向かって振り下ろそうとしているのが沙稀の眼に入った。
琉稀もソレに気付いたが、避ける暇もなく思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「キリエ・エレイソン!!」
張りのある声とともに、振り下ろされた包丁をはじき返す音が当たりに響いた。
「危ないですよ下がっていなさい」
柔らかな声が背後から聞こえる。
「お、お父さん・・・」
琉稀は涙で滲む視界に声の主を捕らえると言われたとおり沙稀の近くまで駆け寄った。沙稀は走り寄ってきた琉稀を抱きしめる。
「危ない事するな」
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