連載

□砂上の唄
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『貴方の為になら…』




『死んでもかまいません…』




『いつでも、貴方の傍に…』



















 乾いた風が、砂塵を運ぶ。
 砂漠の町、モロク。
 照りつける灼熱の日差しに全身を晒して、それすら軽く受け流すかのように颯爽とした足取りで、彼は町を横切った。
「……」
 質素なつくりのトドアを開け、中へと足を踏み入れる。
「あ。おかえりなさい、沙稀」
 そういって自分を迎え入れたのは、同居している黒髪のプリーストだった。
「ああ」
 服についた砂埃を軽くはたき、沙稀と呼ばれたアサシンは家の中へと上がる。
「ねぇ沙稀。回復剤は役に立ちますか?」
「…何故だ?」
 唐突に言われ、沙稀は首をかしげて問い返す。
「いえ、なんとなく、支援する人がいないと回復剤を消費するのではないかなぁと思いまして…」
「まぁ、確かに…」
 言われた言葉に、沙稀の眉間に皺が寄った。
「でしょう? だから…」
 言いつつ、プリーストはダンボールいっぱいに入ったマステラの実を差し出す。
「……」
「高かったんですよ?」
「……」
「コレで仕事も捗ります!」
「……」
「………さ、沙稀?」
 何を言っても無言でじっとそのダンボールを見つめたまま反応を示さない沙稀に、プリーストは恐る恐る声をかけた。
「…そうだな」
 そう答えた金髪のアサシン、沙稀は何処か淋しそうな表情をしていた。




† † †




『ここまででしょうかね…』
 漆黒の髪を血で濡らしたアサシンは、同じく血で滑るカタールの柄を握り締め、呟いた。
『カイン、後どれ位粘れる…?』
 金髪のアサシンは裂傷を負った頬の血を拭いながら黒髪のアサシンに向かって問いかける。
『貴方が言うなら、何処までも粘って見せますが…?』
 場を占める空気は緊迫している筈なのにも関わらず、カインの台詞は自棄に冗談交じりだ。
 金髪のアサシンは溜息をつく。
『悠長な奴だ』
『それが取り柄です』
 笑顔で答えたカインに、もう一度溜息が出そうになる。
『沙稀…』
『…なんだ。下らない事を言うなら斬るぞ』
 もうお喋りなどしている場合ではないかもしれない。無数の人間の気配がすぐそこまでやって来ていた。
『最後に一つだけ…』
 視線は前方に固定したまま、カインは何か含むような言い回しで呟いた。
『居たぞ! こっちだ!』
 必要以上にしつこく追い回してくる追っ手が、沙稀とカインの気配を見つけ、仲間達に声をかける。
『言いたいことがあるなら、さっさと言え』
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