連載
□月光4
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どうしたら、彼の興味を引くことができるだろうか。
俯いた譜迩に向かって彼が口を開いた。
「俺の名前より重要な事を教えてやるよ」
彼は酷く悲しそうな眼をしてそう言う。
譜迩は小首を傾げた。
「俺、プリーストが大嫌いなの」
周りの喧騒が嘘の様に、彼の言葉だけが鮮明に耳に届く。
「いもしない神に遣える職業なんて大嫌い」
背筋が凍り付く位に、冷え切った声音で彼はそう言った。
「どうして…」
返した声が震えてしまう。
彼の眼は酷く真剣だった。
二人だけがこの場から切り取られてしまった様な錯覚に陥る。
「だから、アンタも嫌い」
尖った氷の刃を心臓に突き立てられる。
自分が信念を持って歩もうとする道を、彼は今完全に否定したのだ。
譜迩はただ呆然と彼を見つめることしか出来なかった。
琉稀は頭を抱えていた。
そういえば、自分が思いを寄せる相手は大嫌いなプリーストになる予定で、それを目標に日々修行を怠らない。
とんでもない話だ。
何故こんな事になるのだろう。皮肉な物だ。
琉稀は少々曲がった性格をしているため、素直になれないことも多々あり相手を困らせることも少なくない。
だが、どうしたものか。
幼い頃は憧れてやまなかった職業であるプリーストは、ある日を境に大嫌いな職業へと変わってしまった。
否、プリースト自体が嫌いな訳ではない。
あの時、琉稀の中の神への信仰心というものが全く消え失せてしまった事が原因だろう。
神を信じる事を否定するのは、プリーストの存在を否定すること。
強かった父親。
だが、その父親さえ、生きていてはくれなかった。
どうして神様が付いている筈のプリーストが死ぬのだろう。
父親が死んだ事は、幼い琉稀にとって悲しみよりも深い怒りを生み出してしまった。
強く、気高いプリーストである父親が死ぬ事は、信じて止まなかった父親の裏切り。
それは琉稀の感情を歪めてしまう程の衝撃だった。
そんな感情を持つことしかできなかったが、そんな感情しか持てない自分が許せない。
結局、そうなる原因がプリーストであると結論付けてしまうことしかできないのだ。