連載
□月光3
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思わず呟く。
このまま彼をどうにかしてしまいたい気持ちになるが、生憎眠っている相手に興味はない。
寝惚けた人間を相手にするより、意識が鮮明な時にしたほうがより楽しみも増えると言うものだ。
琉稀は意味深な笑みを浮かべてベッドから降りた。
ふと、部屋の隅にある机の上に視線が止まる。
そこには小さな一輪挿しに挿された、真っ赤な一本の薔薇。
琉稀は言い様のない気持ちになって頭を掻いた。
ここを去るとき、拾ったゼロピーを売って貯めた金で買った『しおれない薔薇』だ。15年の歳月が流れ、琉稀が二十歳になってもそれは変わらない赤い花弁を保っている。
『さようなら』
言って、別れを惜しむ間もなくそれを押し付けた相手。
それがそこに眠る彼だ。
「参ったな…」
益々、好きになっちゃいそうだよ。
そんな気持ちを胸に秘め、琉稀は薔薇を見つめた。
そして、琉稀は侵入してきた時と同じように窓に足を掛けると、躊躇いもなく外へと飛び降りる。
「俺、好きな相手は虐めるタイプ…」
着地して、壊れた窓に向かってそういう。
「覚悟しとけよ、譜迩…」
にやり、と悪童の様に笑い、琉稀は教会を後にする。
次に会うときはどんな事をしてやろうか、そう考えただけで顔がにやけそうだ。
半月が見下ろす中、琉稀はプロンテラから風に溶ける様にに姿を消した。
宵闇2 END