連載

□月光3
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神なんか嫌いだ。

それを崇拝して祈りを捧げるプリーストなんて、もっと嫌いだ。

肝心な時に、救いの手を差し伸べてくれない。

あんなに強かった父親の力でさえ、それを叶えることが出来なかったのだから…。



















首にかけたロザリーに口付ける。
そうするのももう癖の様になっていた。
仕事へ出向く前に、琉稀は必ずそうしてからロザリーを懐に仕舞う。

祈りを捧げる訳ではない。
神に祈るなど吐き気がする。
これは呪(まじな)いの様なものだった。

琉稀は俗に言われるクリティカルアサシンである。
父親の残したコボルトカードのささったロザリーを装備するのはもってこいだったが、琉稀は敢えてそれをせずにただお守りのようにそれを持ち歩いている。

半月が照らす砂漠の街の空は恐ろしい程に煌めく星々に彩られていた。
琉稀の装備は人間特化仕様にしたバリアスジュル。
バリアスジュルは結構使いづらい武器である。鋭い刃が並んでいるため、誤って自分を傷付ける事も少なくないが、それももう慣れたものだ。

今日の任務はプロンテラで遂行する。
琉稀はふと胸に浮かんだ思いを打ち消すようにカプラサービスの元へと向かった。











任務は呆気ない位簡単に終わってしまった。
琉稀は腕の中で急速に体温を失ってゆく体を地面へと放る。
鋭く尖った2本の牙が覗く唇についた血を手の甲で拭い、琉稀は音もなくその場を後にした。
今日は、忌々しいあの事件が起こった日であり、両親の命日である。
こんな深夜なら人に見付かることも少ないだろうと思い、ある場所へと向かった。
プロンテラにある教会。
嘗て父親が講師を努めていた小さな教会だ。
本来なら近付きたくもない場所だが、墓参り位はしたい。
小さな花束を手に、門を潜る。
こんな場所に潜入するくらい訳はない。
琉稀は目的の場所へたどり着くと膝を折ってその墓標を手でなぞった。

夜風が頬に心地よい。
先に誰かが来たのだろうか。その場所には沢山の花輪や花束が添えられていた。
父が多くの人に慕われるような存在だったという事が窺える。

「……」

アサシンに成ったことは後悔していない。
今になっては天職だとも思う。
上司の刹那はテロが大嫌いらしく、テロが発生すると直ぐにアサシン達をその場へ派遣するよう手配するし、殺しも余程の事がない限り不正なものは避けてくれていた。
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