連載

□月光2
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「俺みたいな親切なアサシンなんて、たぶんいないと思うよ」
「…っ;;」
 少年は最早何か口に出来る常態ではなかった。喉を動かせば、押し当てられているナイフに自ら切られに行くようなものだ。
「だから、近寄るなって、言ってたのに…」
 彼は、何処か悲しそうな表情をしながら、そう言う。
「…っ」
「ふっ、まぁ、お仕置きは此処までにしといてやる。さっさとお家に帰りな」
 彼は唐突にナイフを下げると、踵を返し再び死体の傍へ歩み寄った。
「誰にでも、言いたければ言えばいい。そうしたらお前を殺すまでだ」
「でもっ! あ、貴方は俺を助けてくれたじゃ…」
 死体を担ぎ、立ち去ろうとする彼に向かって、少年はまだ咳き込む喉を気遣いながらも叫んだ。
「…何の話だ? お前みたいなヤツ、助けた事もないけど…?」
 アサシンは振り返りもせず、その場を後にした。
「…」
 取り残された少年は、立ち上がり、後を追おうとしたが、足を動かす事はなかった。
 体が震えている。
「なんで…なんで…?」
 自分は殺されて当たり前だったのだ。何故、殺さなかったのだろう。
 興味本位だったのだろうか…?
 言い様のない靄が少年の胸に蟠る。
 少年はただ、その場からしばらく動けずにいた。


続く。
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