連載

□月光
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 今まで上の空でぼーっとしていた譜迩は突然耳に飛び込んできた言葉に驚いてカイトを見上げる。


「うるさい。疲れたんだ。早く戻してくれ」


 頭を抱えて唸るカイトの様子を見ると、どうやらあの大量のモンスターを相手に一仕事終えたような疲労感が容易に感じ取れるような気がする。


「カイト一人で倒しちゃったの!? スゴーイ!!」


 譜自は羨望の眼差しでカイトを見遣ると、早々にワープポータルを唱えた。




「ハーイ、じゃあ拾ったものはリク様のカートに打ち込んでくれー!」


 見慣れた教会の前にたどり着くと、リクは背中を伸ばしてそう言う。


「あー。やっぱ外が一番だ〜」


 じめじめした薄暗い洞窟に居ると、誰でも気が滅入ってしまうものだろう。譜迩はリクのカートに収穫したものを投げ込んだ。


「んじゃ、俺は売る物売ってくるから。後で稼ぎわたすからな〜」


 ひらひらと手を振りながら、リクは人でごった返すプロンテラの中央へと向かって歩みを進めていった。


 一方のカイトはいかにも疲労困憊ですと言った表情でぼんやりと佇んでいる。

「カイト・・・大丈夫・・・?」

「ああ・・・」


 どうでもよさそうな返事を返し、カイトはいかにも重たそうにカートを引きずって自分の部屋の方へ向かって歩き出した。

 そのカートの中に詰め込まれていた回復剤の類は全て使い果たされたと言うのに・・・。


「ヒール! ブレッシング!」


 あまりにも痛々しいカイトの姿に、譜自は意味が無いとわかっていても願ってしまった。

 外傷などは全く無いのだ、カイトには。ただ、想像も絶する疲労感があるだけ。


「ありがとう。少し休めばよくなるから・・・」


 力なく笑い、心配そうな顔で隣を歩く譜迩の頭を撫でる。


「じゃあ、夕飯の支度してるから!」


 譜自はせめて自分の出来ることをしようと、カイトにそう告げて中庭を後にした。



† † †

 焼け付くような日差しの照りつける砂漠の町、モロク。
 そこから少し離れた砂漠の中に、アサシンギルドが存在する。
 照りつける太陽と、吹き荒れる砂塵。
 誰もが好んで近づかないその場所は、日が落ちると打って変わった寒さに覆われてしまう。
「任務ご苦労」
「大して苦労してないけど・・・?」
 アサシンギルド内部。
 その素性が全て闇に閉ざされているアサシンたちの集う場所には、決して他の人間が入り込むことなど許されない。
 例え入り込めたとしても、再び外の世界へ出られることは無いだろう。生きたままでは。
「そうか」
 金色の髪をしたアサシンクロスが、銀色の髪をしたアサシンに紫色の瞳を向ける。その色は普段とは全く違い、優しげな光を燈していた。
「大体、もう俺90だよ? なのに、何でまだこんな訓練まがいの事しなきゃならないわけ?」
 銀髪のアサシンは大きく息を吸い込んで、吐き出す。
「まだお前は経験が浅いからな・・・」
 金髪のアサシンはやれやれといった態度で銀髪のアサシンを宥める。
「大体、兄貴はどれだけ経験があるっていうの? 俺と1歳しか変わらないじゃん」
「そうかもしれんが・・・大体お前が仕事の好き嫌いを言い過ぎるから刹那が怒ってだなぁ・・・」
「だってしょーがないだろ。嫌なものは嫌ナンだし?」
「・・・・・・・・・」
 文句を言う銀髪のアサシンに理由を説明しようとするが一向に非を認めようとしない彼に、兄である金髪のアサシンは頭を抱えてしまった。
「それより琉稀、怪我はしなかったか?」
 もうこれ以上話し合っても無駄だと思い、兄は弟を思い遣る言葉を口に出す。
「なに? 今更・・・。大丈夫だって。なんか近くに居たアコライトにヒールしてもらったし・・・・・邪魔だったけど・・・」
「そうか」
「あいつ、プリーストになるんだろうな・・・」
 先ほどの事を思い出し、銀髪のアサシン、琉稀はつまらなそうに溜息をついた。
「何故だ?」
「えー? ヒールの回復量が多かったからさ。あーあ。プリーストなんてこの世から居なくなればいいのになぁ・・・」
 琉稀は面白くなさそうな表情で寄り掛かっていた壁から背を離す。
「相変わらずだな」
 兄は苦笑すると、歩き去って居行く弟の背中を暫く見つめていた。
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