連載

□月光
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腐った生き物の臭いと、視界を遮る霧。

プリーストを目指しているアコライトの少年は途方に暮れていた。


「参ったなぁ…皆何処へ行っちゃったんだろ…」


父親を見習い、JOBレベルが50になってから転職をすると心に決めている彼は、少々不安気な表情で辺りを見渡し、呟いた。

既に2次職となっている友人達と公平パーティを組み、このゲフェンダンジョンへやってきたのだが―…。

「あんなに沸いたから、皆飛んだんだけど…大丈夫かな…」

得体の知れない不気味な気配に気押されまいと、不自然な独り言が口をつく。

「……」

少年は属に言う支援アコライトだ。物理的攻撃力は皆無に等しい。
このまま単独行動をしていては、折角苦労して稼いだ経験地がパァになってしまう。

バサバサと何処かでコウモリの羽音がした。

「…ど、どーしよーっかなーぁ、と…ははっ…」

努めて明るく言葉を発してみる。

バサバサ…バサバサ…。

ゾンビやグールなら、まだ回復呪文のヒールを駆使して撃退することは可能だが、実体のないナイトメアや、小柄なくせに吸血が厄介な赤コウモリ等と出会えば間違いなく意識を失うことになるだろう。

「……はぁ」

幸い近くには何も居ないような……。

バサバサバサバサッ!!!!

「うわぁぁあ!!!?」

突然背後に何かが現れた。
今まで遠くから聞こえて居るだけなのかと思っていた羽音が、すぐそばにある。
しかし、それは吸血コウモリののそれではなく、灰色のコウモリのものだった。
対して怖い相手ではないのだが。

「なっ、なんでこんなにファミリアがっ!!?」

バサバサとまとわりついてくる大量の灰色コウモリを手で振り払い、持っていた杖を振り回す。

「なんなんだよっ!!!」

叫んだ瞬間、背筋に悪感が走る。

―何か、居る…!!

少年はその気配に、体を硬直させた。こわばった肩に、体温の無い指先が触れる。

―…!!

少年は瞼を固く閉じた。果たして、覚悟は出来たのだろうか。

―………………………

―…………………………………?

刃の交わるような、鋭い音が耳を霞める。
生暖かいしぶきが頬を叩いた。

「ちっ…!! 離れてろッ!!」

くぐもってはいるが、張りのある声が少年の肩を突き飛ばす。
地面へと伏せた少年は目の前の光景に目を見開いた。

―ドラキュラ…。

そういえば、聞いたことがある。此処にはBOSSも居るのだった。

「…っ!!」

そのBOSSから少年をかばうように立つ人物に、少年は息をのんだ。
その人物は肩口から出血し、腕を挙げられずにいる。両手に握らしめられているのは短剣。

―アサシン…。

紺色の装束を纏った人物は肩の出血を全く意識せず、短剣を構え一歩踏み出した。

目に追えぬ程の早さで、敵を切り刻む。

「ヒ、ヒール!! ブレッシング!! 速度増加!!」

少年は思い出したかのように神へ祈りを捧げ、奇跡を起こした。


刃の音が消える。
先ほどまで漂っていた吐気を催すような気配は完全に消え失せていた。
少年はSP切れの為に座り込んでいる。

「礼は言わないぞ…利害が一致したまでだ」

そのセリフに、少年はのろのろと顔を上げた。
生きているだけで奇跡だと思っているのに、礼を言わせようなど、愚の骨頂だ。

「そうですね…」

力なく笑い、声の人物へと目をやる。
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