連載

□砂上の唄5
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「悪かったな…。何か話してくれるかと思ってかまかけたつもりだ」
頑なな沙稀の態度に、朔夜は苦笑を浮かべて溜め息をついた。
「たまには頼ってくれてもいいんじゃないの?自分で解決出来ないからそんな風になってんだよ」
朔夜の言うことは尤もだ。
自分で解決出来る問題なら、仕事が上の空になる筈もないのだから。
「…それでも人に頼りたくないって言うんなら、仕事なんかしてないでさっさと探しにいきな」
忘れようと、仕事をしているつもりだった。けれど、それすらできないなら仕事などしている場合ではない。
結局、あれがカインだったのか、それとも瓜二つな他人だったのかすらわからない状態で胸に蟠りを抱えて、この先どうなるというのだろう。
あれが本当にカインだったとして、この先自分を思い出してくれなかったらと考えれば言わない方が楽だと思っていた。

思っていながらも、いつか思い出して欲しいと願った。
けれど、彼が何か思い出すことはなく、1ヶ月と待てなかった。
ならばいっそのこと他人だと思いこんだ方が楽だと、そんな事を考えて、もう見てはいられなくなってしまった。
それが結局は、断ち切れもせずこの有り様だ。
いつまで、いつまでこんな気持ちを抱き続けなければならないのだろうか。
それなら、カインが生きているのか既にこの世にはいないのか、それが分かれば少しはマシになるのだろう。
心の中では生きていると信じていた。
だから、恐ろしかった。彼がもうこの世にはいないという証拠を見つけてしまうことが。
けれど、もう希望だけを持ち続けることは難しくなってしまったのだ。
「…こっちはお前が居なくてもなんとかなると思うよ。負担はデカいけどww」
朔夜は笑いながらそう言ってくれる。
沙稀はもう、迷っている場合ではなかった。
「…すまない」
額をおさえた沙稀は、漸くそう言うと、朔夜の肩を掴む。
「俺は、カインを探しに行く」
三年経って、やっと沙稀がそう言ったのを、待ってましたという表情で朔夜は頷いた。
「なら、副マスターに何か言われる前にさっさと出て行きな。巧いこと言っといてやるからさww」
そう言うと、沙稀の頭をぐしゃぐしゃと撫でた朔夜は背中を向けたまま手を振りながら廊下を歩いてゆく。
沙稀はその背中を感謝の意を込めて見送ると、そのまま出口へと引き返した。
先ずは、あの名も無きプリーストが話していた彼の記憶が始まったという場所、泉の国アマツへ―…。









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